虐待が解決した事例は見たことがない
「虐待は、初期の段階で、行政や介護従事者が介入しないと、解決はほぼ無理です。常習化してしまうと、解決したケースは見たことがありません」と澤田さんは続けた。
澤田さんは、長年、介護職に従事しているが、未だに虐待に対する解決策を思いつかないと語る。
「高齢者の虐待は、身内からが多いですが、私は年に1回、見かけるか見かけないかです。
ですが、全体を統括しているケアマネジャーは、2か月に1回ほど、何かしらの大きな虐待ケースに当たるし、叩いてしまったなどの軽い虐待はしょっちゅうだと聞きます」
厚生労働省の令和4(2022)年の調査では、要介護高齢者への虐待に多いのは、親族からの虐待で、特に多いのは実の息子によるもので、39.0%を占める。
澤田さんによると、実の息子の中でも、特に長男が多いという。
「昔、長男の誕生は、後継ぎが産まれたと喜ばれましたよね。ですので、長男は、他の子どもに比べて、手厚く・甘やかされて育っている場合が多いです。
長男に甘い母の多くは、虐待があっても “私のせいだ” “私が我慢すればいい”と口を揃えて、息子を庇います。
ニートやひきこもりにも長男が多いです。親が面倒を手厚くみてきたのが、高齢になると面倒を見切れなくなります。自分がやらなければいけないことが増えて、わがままが通らなくなると、親を虐待してしまうことはよくあります」
背後にある「2025問題」
2022年9月の総務省の統計によると、総人口に占める高齢者人口の割合は、1950年(4.9%)以降一貫して上昇が続いており、1985年に10%、2005年に20%を超え、2022年は29.1%となった。
国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、この割合は今後も上昇を続け、第2次ベビーブーム期(1971年~1974年)に生まれた世代が65歳以上となる2040年には、35.3%になると見込まれている。
また、厚生労働省の推計によると、2025年には後期高齢者(75歳以上)の人口は2,179万人に達すると言われている。
つまり、総人口のうち18.1%が後期高齢者となる。
2,000万人以上の後期高齢者を介護するためには、介護人材が245万人必要と言われているが、それに対して現在の介護人材は190万人。
55万人もの人材が足りていない状況で、年間約6万人の介護人材を増やしていかなければならない計算となる。
虐待は、初期の段階で、行政や介護従事者が介入しないと、解決はほぼ無理とはいっても、介入する人材が足りていないのが現状だ。
介護人材の確保のため、外国人労働者の受け入れや、介護職の待遇改善や虐待の早期発見と予防のための地域教育、学校でのプログラム、虐待の通報体制強化や、被害者保護の法律改正など、抜本的な解決策が必要だろう。
取材・文/田口ゆう サムネイル/Shutterstock