部屋から出ることを禁じられ風呂にも入っていない半監禁状態の母
「兄は、母親を風呂・トイレ付きの部屋から出ることを禁じていて、母親は風呂にも入っていない様子で異臭がしました。
半監禁状態ですね。兄からの虐待を恐れた母親は、常に娘さんを同じ部屋に寝かせていましたよ」
兄は体裁を気にするので、澤田さんを始め、介護事業者には気遣いをする人間だったという。
しかし、澤田さんが母親のオムツを交換すると、背中や尻に青あざがある。妹の腹部にも、青あざが見えた。
「ベッドで寝たきりの人の背中に青あざができるなんて、滅多にあることではありません。兄が、殴ったり蹴ったりしていたのでしょう」
そんな日々が続いていたが、澤田さんはケアマネジャーや包括に文書で報告はするものの、虐待者である兄本人には注意はしなかった。それはなぜなのか。
「私たち介護従事者は、虐待を発見しても、その場で注意したりはしません。注意すると、刺激してしまうので、より事態は悪化してしまうからです」
見守りながらヘルパーをしていたが最悪の事態が起こってしまう
「私がある日、訪問すると、妹がツナ缶を食べていました。私が “ツナ缶だけじゃお腹が空いちゃうんじゃない?” と聞くと、妹から “これ、ネコ缶だよ。私、悪いことしたからご飯抜きなんだ。これでも食べてろってお兄ちゃんに言われた” と言うんです。
よく見ると、ホントにネコ缶だったんです。その時期には、妹さんが、幻覚が出始めていたので、兄の気の障ることをしたのかもしれません」
その母は、亡くなるまで「私が死んだら、妹が兄に何かされるか分からない」と心配しながら亡くなった。
「さぞかし悔いが残ったと思います。だけど、母が死んだ以上は関わりようがないので、今、その兄妹がどうなっているかは誰も知りません」と澤田さんは心配そうに語った。