“組織内フリーランス”ではない! 「4時半に起きてルポライターとしての原稿の執筆。10時からは会社の勤務時間」二刀流記者の創作アウトプット術
新聞社の特派員としてアフリカの最深部に迫ったルポ・エッセイ『沸騰大陸』。ルポライターとしての活動により「組織内フリーランス」として自由に取材をしているように思われがちだが、「実際はまったく違う」と著者の三浦英之氏は言う。睡眠時間や命を削ってまで、彼が描きたかったものとは。創作スタイルから紐解く。〈全3回の3回目〉
沸騰大陸 #8
「一匹狼」ではなく、「一頭象」と呼ばれたい
――『沸騰大陸』では、その膨大な移動距離の先に見えたアフリカの雄大な景色も、印象的に描かれていました。
アフリカでは、見渡す限りの大地や壮大な夕焼けとか、テレビや映画や写真で見たことのあるような絶景を何度も目にしますし、それはそれでとても感動するんですが、ともすると紋切り型になってしまうため、新刊の『沸騰大陸』には盛り込んでいないのです。
ただ、そんな中でも、いま改めて心からの感動を思い出すのは、やはりアフリカゾウのことです。たまたま夕暮れ時、広大な草原で車のエンジンを止めて地平線を見ていたんですね。アフリカの地平線って、本当に丸いんですよ。
そしたら地平線の向こう側がこう、黒くて太い線になって、ところどころに点々が見える。何だろうな、と見ていたら、その線がだんだん太く、大きくなってくるわけです。ズン、ズン、ズンって。それらが、はるか遠くからこちらに向かってくるゾウの大群なんだと気づいたときには、本当に鳥肌が立ちました。まるで地平線が動いてるみたいなんです。
草原を埋めた数百頭のアフリカゾウの群れが、ブワーンとこっちに迫って来る。しかも先頭にいるのが、メスの一番の長老のゾウなんですが、それが鼻を高く押し上げ、耳をバタバタしながら、こちらを威嚇しながら迫ってくる。これを見たときは、もう胸がいっぱいで、アフリカに来て本当によかったな、と思いました。
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――それは一度、ぜひ見てみたい光景です。
ぜひ、見てみてください。ゾウという生き物は、あまりに雄大で、優しく、彼らそのものが「大地」なんです。だからできれば、動物園ではなく、アフリカに出向いて、野生のゾウたちを見てほしい。
僕はよく、周囲から「一匹狼」と言われますが、実はオオカミは群れで生活する動物です。一方、アフリカゾウのオスは大きくなると、群れを離れて一頭で行動します。だから僕も、「一匹狼」ではなく、「一頭象」と呼ばれたいです(笑)。
取材・文・撮影/集英社学芸編集部
2024/10/25
2,090円(税込)
224ページ
ISBN: 978-4087817607
「生け贄」として埋められる子ども。
78歳の老人に嫁がされた9歳の少女。
銃撃を逃れて毒ナタを振るう少年。
新聞社の特派員としてアフリカの最深部に迫った著者の手元には、生々しさゆえにお蔵入りとなった膨大な取材メモが残された。驚くべき事実の数々から厳選した34編を収録。
ノンフィクション賞を次々と受賞した気鋭のルポライターが、閉塞感に包まれた現代日本に問う、むき出しの「生」と「死」の物語。
心を揺さぶるルポ・エッセイの新境地!
目次
はじめに 沸騰大陸を旅する前に
第一章 若者たちのリアル
傍観者になった日――エジプト
タマネギと換気扇――エジプト
リードダンスの夜――スワジランド
元少年兵たちのクリスマス――中央アフリカ
九歳の花嫁――ケニア
牛跳びの少年――エチオピア
自爆ベルトの少女――ナイジェリア
生け贄――ウガンダ
美しき人々――ナミビア
電気のない村――レソト
第二章 ウソと真実
ノーベル賞なんていらない――コンゴ
隣人を殺した理由――ルワンダ
ガリッサ大学襲撃事件――ケニア
宝島――ケニア・ウガンダ
マンデラの「誤算」――南アフリカ
結合性双生児――ウガンダ
白人だけの町――南アフリカ
エボラ――リベリア
「ヒーロー」が駆け抜けた風景――南アフリカ
第三章 神々の大地
悲しみの森――マダガスカル
養殖ライオンの夢――南アフリカ
呼吸する大地――南アフリカ・ケニア
「アフリカの天井」で起きていること――エチオピア
強制移住の「楽園」――セーシェル・モーリシャス
魅惑のインジェラ――エチオピア
モスクを造る――マリ
裸足の歌姫――カーボベルデ
アフリカ最後の「植民地」――アルジェリア・西サハラ
第四章 日本とアフリカ
日本人ジャーナリストが殺害された日――ヨルダン
ウガンダの父――ウガンダ
自衛隊は撃てるのか――南スーダン
世界で一番美しい星空――ナミビア
戦場に残った日本人――南スーダン
星の王子さまを訪ねて――モロッコ