「生け贄」として埋められる子ども、78歳の老人と結婚させられる9歳の少女、銃撃を逃れて毒ナタを振るう少年…メディアが報じないアフリカの「不都合な真実」
「生け贄」として埋められる子どもや、78歳の老人と結婚させられる9歳の少女、銃撃を逃れて毒ナタを振るう少年など、アフリカのありのままが記された『沸騰大陸』。これまでアフリカに関する著作を3冊上梓してきたルポライターの三浦英之氏に、最新刊の話題を中心にアフリカの「不都合な真実」について話を聞いた。〈全3回の1回目〉
沸騰大陸 #5
アフリカに到着してすぐに強制送還
――でも当時、スーダンは内戦中ですよね?
アフリカに到着して一番初めに味わった出来事が、強制送還ですよ(笑)。空港に降りて陸上自衛隊からの招聘状とパスポートを出したら、入国審査官がニヤニヤしながら「100ドルよこせ」と言ってくる。でも、こちらにはそんな賄賂まがいのカネは出せない。
困り果てていたら、空港所長がやって来た。所長だったらなんとかしてくれるはずだ、と期待してついていったら、所長室に入るなり、今度は空港所長が「俺に500ドル渡せ。何とかしてやる」と。
それを固辞したら、警備兵を呼ばれ、兵士4人にカラシニコフ銃を突きつけられて強制送還。もうビックリしましたけど。会社に電話をしたら、「抵抗せずに戻ってこい」と。
――そんな理不尽なことがまかり通るんですね。
そのときに乗っていたのはドバイ系の航空会社だったんですけど、仕方なく飛行機へ戻ったら、キャビンアテンダントが笑顔で「ウェルカム・バック」と(笑)。そしてビジネスクラスのとこに座らせてくれて、シャンパンが出てきました。「年に何回かあるのよ」って。
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――まるでフィクションのような話です。
まったく信じられない話です。飛行機についてはもう一つ面白い話があって、こっちは『太陽の子』に少し書いたのですが、アフリカ中部の紛争国・コンゴ民主共和国で、ある鉱山王に同行して地方のレアメタル鉱山を取材したことがありました。
コンゴでは国内移動でもパスポートや荷物の検査があるのですが、鉱山王はそれぞれ係員に100ドル札を手渡し、すべてノーチェックで通過していく。
同行した僕たちがそれ以上に驚いたのは、途中で飛行機のルートを変えさせたことです。鉱山王は通常、プライベートジェットで移動しているのですが、その日は運悪くそのプライベートジェットが点検中で、通常の旅客機で移動するしかなかった。往路こそ、所有するレアメタル鉱山がある地方への直行便があったのですが、復路では前後2日間、その地方空港には発着便がなかった。
日本でたとえるなら、鉱山王は東京に住んでいて、所有するレアメタル鉱山が秋田にある。行きは秋田への直行便があったが、翌日の秋田発着の便がない。そこで彼がどうしたかというと、言わば札幌発東京行きの航空機を急遽、秋田空港に一時着陸させ、東京に戻るという強引な手を使ったんです。
鉱山王は「カネさえあれば、コンゴでは何でもできる」と豪語していましたが、アフリカといえど、ちょっととんでもない話です……。
#2に続く
取材・文・撮影/集英社学芸編集部
2024/10/25
2,090円(税込)
224ページ
ISBN: 978-4087817607
「生け贄」として埋められる子ども。
78歳の老人に嫁がされた9歳の少女。
銃撃を逃れて毒ナタを振るう少年。
新聞社の特派員としてアフリカの最深部に迫った著者の手元には、生々しさゆえにお蔵入りとなった膨大な取材メモが残された。驚くべき事実の数々から厳選した34編を収録。
ノンフィクション賞を次々と受賞した気鋭のルポライターが、閉塞感に包まれた現代日本に問う、むき出しの「生」と「死」の物語。
心を揺さぶるルポ・エッセイの新境地!
目次
はじめに 沸騰大陸を旅する前に
第一章 若者たちのリアル
傍観者になった日――エジプト
タマネギと換気扇――エジプト
リードダンスの夜――スワジランド
元少年兵たちのクリスマス――中央アフリカ
九歳の花嫁――ケニア
牛跳びの少年――エチオピア
自爆ベルトの少女――ナイジェリア
生け贄――ウガンダ
美しき人々――ナミビア
電気のない村――レソト
第二章 ウソと真実
ノーベル賞なんていらない――コンゴ
隣人を殺した理由――ルワンダ
ガリッサ大学襲撃事件――ケニア
宝島――ケニア・ウガンダ
マンデラの「誤算」――南アフリカ
結合性双生児――ウガンダ
白人だけの町――南アフリカ
エボラ――リベリア
「ヒーロー」が駆け抜けた風景――南アフリカ
第三章 神々の大地
悲しみの森――マダガスカル
養殖ライオンの夢――南アフリカ
呼吸する大地――南アフリカ・ケニア
「アフリカの天井」で起きていること――エチオピア
強制移住の「楽園」――セーシェル・モーリシャス
魅惑のインジェラ――エチオピア
モスクを造る――マリ
裸足の歌姫――カーボベルデ
アフリカ最後の「植民地」――アルジェリア・西サハラ
第四章 日本とアフリカ
日本人ジャーナリストが殺害された日――ヨルダン
ウガンダの父――ウガンダ
自衛隊は撃てるのか――南スーダン
世界で一番美しい星空――ナミビア
戦場に残った日本人――南スーダン
星の王子さまを訪ねて――モロッコ