家事労働とお金の不安に取りつかれる日々

「このままでは精神と肉体を疲弊させてボロボロになる。残りの人生は自由でありたい」

そんな思いから50歳で早期退職を決意。専業主婦の妻を説得するのは大変だったが、最終的にはこれまで勤め上げてきたことに対し、ねぎらいの言葉をかけてくれ、背中を押してくれた。

しかし、上司に早期退職を伝えた瞬間、田中さんの心は予想外に動揺していた。

「気分的にスカッとするかと思いきや、『本当にこれでよかったのか?』と後悔ばかりが押し寄せてきました。退職の日を迎えても、どちらかというと喜びよりも不安の方が大きかったです」

いざ退職してみると、夢に見た「自由」な生活は、意外にも質素で地味なものだった。

「自由時間が増える目論見でしたが、妻と家事労働を折半するようになり、案外やることが多くて忙しい毎日です。

月・水・金に本格的に家の掃除をして、猫トイレの洗浄と風呂掃除もする。なかなかの大仕事です。あと買い物が毎日のようにあります。週の半分は食事当番で、うちは夕食が早いので午後3時ごろには調理を開始しなくてはいけないんです」

そして常に脳裏をよぎるのはお金への不安だ。

「二度と働きたくないと思っていましたが、根が心配性なので、資産を30年期間で見ると、決して裕福には暮らせません。退職してすぐにクラウドソーシングの仕事を始めましたが、生業というわけではなく、小遣い稼ぎ程度です…」

夢に見た「自由な生活」を勝ち取ったはずだったが…
夢に見た「自由な生活」を勝ち取ったはずだったが…