お笑い界やテレビ界にとって無視できない「佐久間」という存在

放送作家はテレビの企画を考えたり、台本を書いたりするのが主な仕事である。売れっ子になると複数の番組を掛け持ちするのが普通であり、あちこちの局を駆けずり回ってアイデアを出したり、ディレクターの相談役になったりする。 

あくまでも番組作りの補佐役のようなところがあり、ディレクターのように実際に収録・撮影・編集などを行うわけではないので、ある程度は自由に動ける立場にある。 

一方、佐久間はディレクターやプロデューサーとして制作に携わっている。制作現場の最前線で打ち合わせを繰り返し、演出プランを練り、編集に立ち会う。ディレクターは映画で言えば映画監督にあたり、番組内容に責任を負う仕事だ。タレント業と簡単に両立できるようなものではない。 

でも、佐久間はいつの間にか演者として表にも出る人間になっていた。そういうポジションに就いてからも芸能人っぽさを醸し出すことはなく、あくまでも自分は作り手の1人であるというスタンスを崩さない。 

しかも、演者とテレビマンの二足のわらじを履く多忙な日々を送りながらも、膨大な量の作品をインプットし続けている。演劇、映画、ドラマ、漫画、音楽などに幅広く興味を持ち、多くのコンテンツに触れている。そういうものがきっかけで企画のアイデアを思いついたり、キャスティングを考えたりすることもあるという。 

独立してからはクリエイターとしても今まで以上に多方面で活動している。テレビ東京以外の局で番組を作ったり、Netflixの『トークサバイバー!〜トークが面白いと生き残れるドラマ〜』『LIGHTHOUSE〜悩める2人、6ヶ月の対話〜』、DMMTVの『インシデンツ』などの配信コンテンツも手がけている。 

自身のラジオ番組では、番組制作の裏側について語ったり、最近見た作品を紹介したりもしている。そんな佐久間の話に聞き入る熱心なファンも多い。2022年の『M-1グランプリ』では、ウエストランドがそんな佐久間ファンの心酔ぶりをを揶揄するような漫才を披露していた。漫才のネタにされるほど、佐久間という存在はお笑い界やテレビ界にとって無視できないほど大きいものになっている。

なぜ裏方だった佐久間宣行はお笑い界、テレビ界で無視できないほどの快進撃を見せているのか?_2
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 ラリー遠田
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。専攻は哲学。テレビ番組制作会社勤務を経て、フリーライターに。在野のお笑い評論家として、テレビやお笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行っている。著書に、『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり 〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)他。

松本人志とお笑いとテレビ
ラリー遠田
松本人志とお笑いとテレビ
2024/10/8
924円(税込)
208ページ
ISBN: 978-4121508201
松本人志は、なぜ30年近くにわたってトップに立ち続けていたのか。そして「ポスト松本」時代のお笑いとテレビは、どう変わるのか。
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