麻生氏の実権を奪い、早くも「党内唯一」の派閥を敵に
「石破茂君を、本院において内閣総理大臣に指名することに決まりました」
10月1日、衆院本会議での首班指名投票の結果、額賀福志郎衆院議長が石破氏を首相に指名すると、石破氏は深々と頭を下げた。
しかし、そのときの光景はこれまでの首班指名とは少々異なるものだった。
「普通、首班指名で自民党総裁自身が投票する際には、与党が拍手するのが慣習ですが、今回はそれがありませんでした。
そして新首相が指名された瞬間も、拍手はあっても歓声はあがらず。どことなく冷ややかな雰囲気でした」(全国紙政治部記者)
その背景には、石破氏が早くも党内から不満を集めていることがありそうだ。
石破氏による党役員・組閣の人事には党内から不満の声が続出。
「ここまで論功行賞をやるとは思わなかった。石破氏は総裁選の1回目の投票で、議員票は高市早苗氏や小泉進次郎氏に大きく差をつけられての3位と、党内基盤は弱い。
長く『冷や飯』を食わされてきた反動で、これまでの恨みを晴らす人事をしているのでは、とまで思ってしまう」(自民党議員)
特に動揺しているのが、岸田政権の3年間では主流派に位置づけられていた麻生派だ。
麻生政権時代に石破氏が「麻生おろし」をした遺恨があり、石破氏と麻生太郎氏は犬猿の仲。党内融和を演出するため、麻生氏を最高顧問に起用したものの、これは名誉職で「上がり」ポジションだ。
岸田政権時代に岸田文雄首相、茂木敏充幹事長、麻生副総裁(いずれも当時)で三頭政治をしていたことを考えれば、実権はほぼなくなったも同然。
麻生氏は9月30日、石破氏を中心とした党幹部での写真撮影の際に写真に収まることを「拒否」して立ち去ってしまい、早くも溝があることを印象づけた。
石破氏は他の党執行部人事でも麻生派に一定程度配慮する姿勢を見せ、総務会長に麻生派の鈴木俊一氏をあてたが、こちらも幹事長などのポストに比べればそれほど権限はない。
閣僚では麻生派の大臣待機組、武藤容治氏や浅尾慶一郎氏が入閣したのみで、党内で唯一解散を表明していない50人以上の規模の派閥を早くも「敵」に回した形だ。