保護者側も自己嫌悪に

精神的に追い詰められるのは保護者も同じだ。子どもを過度に厳しくしつける負い目と、それでもプログラムを遂行しないといけない義務感との狭間で、焦燥感に追い込まれていく。

間中さんは「再登校率90%以上」という数字もプレッシャーになり、自己嫌悪に陥っていったという。

同様に、別の30代の保護者も、登校刺激により、親子関係が悪化した弊害を明かす。

「最初は希望を抱いて入会しており、再登校して欲しいと強く願っているので、『向こうの指示通りにプログラムをやり切らないといけない』という思考になる。

スタッフからは『親が強く働きかければ子どもも変わる』と発破をかけられ、その通り毅然とした態度で接したら余計子どもに反発されて嫌われる。

そのうち親子関係も悪化して、これから子どもと一緒にどうやって生活していけばいいのか……と、不登校の支援をお願いしているはずなのに、私まで孤独で不安定な想いをしました」

結局、間中さんは、これ以上息子が荒れるのを危惧して、2週間ほどでスダチのプログラムの遂行を止めた。

「息子を押し付けるようなスダチのアプローチが逆効果だったので、いまはまったく違うスタンスを取っています。

現在は不登校当事者の家族会に参加するなどして、自発的に子どもが復学するのを見守ろうと考えています」

写真はイメージです 写真/Shutterstock
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板橋区が不登校支援で迷走

そんなネガティブな側面も懸念されるスダチが、いま物議を醸している。2024年8月5日、スダチが「板橋区と連携し不登校支援を強化」とプレスリリースを発表したのだ。

それから数日後に、板橋区の教育委員会も「一部学校で試行」と説明するなど、両者が連携を匂わせる動きを見せた。

一連の動きに対し、SNSを中心に懸念の声が広まった。「無理に登校を促すのは逆効果」とスダチの事業内容を批判する声や、「区の教育委員会が特定の団体と連携するのはいかがなものか」と板橋区の運営体制を疑問視する意見が目立った。

さらに、上記に対して、NPO団体や保護者団体、居場所事業の主宰者、精神科医や心理士の医療職などを含む有識者らが、区長と区教育長宛に公開質問状を提出する事態にまで発展。連携の経緯や、区の不登校児童・生徒に対する方針に関する内容が問われた。

スダチから発表されたリリースは同月13日に撤回され、現在は板橋区から公開質問状の返答が得られているものの、不可解な動きには混乱が残る。

これらの騒動はなぜ起こったのか、板橋区は事の経緯をどう感じているのか。

後編では、公開質問状を提出した面々に件の問題点を解説してもらいつつ、多方面からひもといていく。

取材・文/佐藤隼秀