〈前編〉

カウンセリングを受けるも、気が滅入る日々…

「あなたは本当にやりたいことだけをやりなさい」

スカイプ経由で、初老の男性カウンセラーが哀れみを讃えた表情で語りかけてくる。

診断から数ヶ月後、僕は区が運営する発達障害支援施設の公認心理士さんにリモートで無料カウンセリングを受けるようになっていた。

当初はこれで症状がよくなるのではないかと期待していたが……カウンセラー氏は同じ言葉を繰り返すだけだった。

「本当にやりたいこと?」

30年続けてきたライター業がそれに該当するか自問したが、簡単には答えはでない。

「この歳で本当にやりたいことと言われても、見当がつきません」

写真はイメージです。 写真/Shutterstock
写真はイメージです。 写真/Shutterstock
すべての画像を見る

若くない上に仕事以外に趣味もない。雲を掴むような話に困惑した。

「では、やりたいことが見つかるまで、いろんなことを試せばいいのです」
「でも今の仕事を辞めて、やりたい事を探しだしたら経済的に立ち行かないです」
「生活保護があるでしょ」
「僕には借金もあるし、生活保護受ける前に自己破産してしまいますよ(注:生活保護は借金の返済には使えない)」
「債務整理の方法なら、ネットで調べられますよ」

そこまでして、仮に鉄道オタクとして目覚めたら、鉄道を眺めているだけで暮らせるとでもいうのだろうか。

彼の真意が掴めず、「で、仮に僕がこの歳で本当にやりたいことを見つけたとして、大成できるんですか!」と質してしまった。

すると「あなた、大成したいんですか?」と言い返された。その言葉に「発達障害のくせに?」の響きを感じた。

発達障害の診断を受けたとき以上に気が滅入ってしまい、次のセッションの予約はキャンセルすることにした。

翌週、秋の夕暮れ、僕は都内の繁華街を、息を切らしながら急いでいた。道に迷って約束の時間に遅れそうなのだ。

初めて訪れる場所に行くときはいつもこうなる。