「せっかく手にした議員の席を1年ちょっとでなくすのはイヤや」
総務省から大阪府財政課長に出向して吉村知事の下で働き、そのまま3年前の知事選で維新の推薦を受け兵庫県知事に当選した斎藤知事にとって、吉村知事は「上司」のような存在。
兵庫県知事就任後も、吉村知事に合わせた上京日程を組んだり、全国知事会議の際に一緒に食事をしたいと言ってスケジュール変更を周囲に強いたりしたといった逸話もある。その吉村氏を代表とする維新は、斎藤知事の疑惑を調べる兵庫県議会の調査委員会(百条委)に反対するなど最後まで斎藤知事をかばってきた。
しかし百条委でパワハラやタカリが次々と明るみになり、守り切れないと見た維新は手のひらを返した。9月9日に他会派に先駆けて知事に辞職要求を突きつけ、火の粉を振り払うのに必死だ。
「維新は昨年の統一地方選で県議席が4から21に増えました。ところが斎藤知事の問題で、最後まで擁護したことに加え、県内が地盤の比例近畿ブロック選出の掘井健智衆院議員が、知事の疑惑を告発した後、人事で報復されるなどして自死した元県民局長Aさん(60)の個人的な情報とされるものを有権者にペラペラしゃべっていたことが発覚しました。
世論の強い批判が党に向いています。知事が失職でなく議会解散を選べば、1年生県議の多くは落選するとみられ、『せっかく手にした議員の席を1年ちょっとでなくすのはイヤや』とパニック状態ですね。だから知事には何としても解散はやめろと圧力をかけています」(県OB)
実は、自民党も事情はあまり変わらないという声がある。
「議会解散、県議選となれば維新の議席の多くは自民党のものとなり、結果の見通しはそれほど暗くないでしょう。しかし、実際には自民党にこそ斎藤知事の“製造者責任”があるとの見方も根強いです」と話すのは野党系の県議だ。
「自民党は3年前の知事選で、井戸敏三前知事が後継指名した候補を支援すると県連が決めました。しかし県議11人がこの決定に造反する形で斎藤氏を担ぎ、斎藤知事誕生につながったんです」(県政界関係者)
当時は歴史的に不人気な菅義偉内閣の下で、自民党が選挙で負け続けていた時期だった。
「兵庫の知事選で負けると政権は目も当てられないことになる状況でした。井戸前知事の後継者と目された当時の副知事は官僚としては優秀なのですが、政治家としては押し出しが弱いという印象があり、必ず勝てるという空気ではなく心配する声がくすぶっていたようです。そこへ維新と関係の深い菅総理と、二階幹事長から『斎藤で行け』という指示と選挙資金がどーん、と降りてきたんです。県連の決定が東京にひっくり返され、分裂した自民の中で維新と組んだ一派が本物の県政与党となったわけです」(県関係者)