高校野球における大人の役割とは

中村 新型コロナウイルスの流行下、早見さんにインタビューさせてもらったことがありました。そのとき、とても印象的だったのは球数制限など、高校野球のルールを決めるときに、なぜ選手に意見を聞かないのかとしきりに話していたことなんです。

もう充分、判断できる年齢にあるのに、と。そのとき、僕は賛同するフリをしていましたけど、ピンときていなかったんです。なんでそんな面倒なことをしなければいけないんだ、と。そのことも『高校野球と人権』の中に書いているんですけども。

中村計 1973年生まれ、千葉県出身。ノンフィクションライター。『甲子園が割れた日 松井秀喜5連続敬遠の真実』でミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞、『勝ち過ぎた監督 駒大苫小牧 幻の三連覇』で講談社ノンフィクション賞を受賞。高校時代は千葉県立薬園台高等学校の硬式野球部に所属
中村計 1973年生まれ、千葉県出身。ノンフィクションライター。『甲子園が割れた日 松井秀喜5連続敬遠の真実』でミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞、『勝ち過ぎた監督 駒大苫小牧 幻の三連覇』で講談社ノンフィクション賞を受賞。高校時代は千葉県立薬園台高等学校の硬式野球部に所属

早見 読みました。えー、中村さん。ピンときてなかったの⁉ って。

中村 早見さんが人権というものをどこまで明確に意識していたかはわからなかったのですが、いずれにせよ、この人は人権の意味をすでに捉えていたんだなということがようやくわかったんです。

早見 いやいや、そんなしっかりした意識ではなかったですけどね。でも、つい最近、そういう感じのコラムを日経新聞(7/28付「その声は、誰の声?」)で書いたんです。

そうしたら、概ねいい反応が返ってきたんですけど、いくつか「寝言言ってんじゃねえよ」とか「高校生に判断なんてできるわけないだろ」みたいな意見があって。驚いたのは、そういう意見の多くが教員からのものだったんです。

こんな人が先生をやってるからダメなんだよという気持ちにもなったし、現場で実際、高校生と接しているとそういう感覚になるのかなとも思うんですけど、でも、いずれにしても立ち返るのは高校時代の自分たちでした。

あのときの僕たちには思考できる力が間違いなくあったし、それを言葉にすることもできたと思うんです。ただ、それを表明させてくれる空気だけがなかった。そこを作るのが大人の役割だと、僕は本気で信じています。

早見和真 1977年生まれ、神奈川県出身。小説家。2008年『ひゃくはち』でデビュー。2015年『イノセント・デイズ』で日本推理作家協会賞受賞。2020年『店長がバカすぎて』で本屋大賞ノミネート。同年『ザ・ロイヤルファミリー』で山本周五郎賞を受賞した。高校時代は桐蔭学園高等学校の硬式野球部に所属
早見和真 1977年生まれ、神奈川県出身。小説家。2008年『ひゃくはち』でデビュー。2015年『イノセント・デイズ』で日本推理作家協会賞受賞。2020年『店長がバカすぎて』で本屋大賞ノミネート。同年『ザ・ロイヤルファミリー』で山本周五郎賞を受賞した。高校時代は桐蔭学園高等学校の硬式野球部に所属

中村 今年も日本高校野球連盟が7イニング制導入の議論をしていることが明るみになり、それに対する高野連関係者や監督の意見は報道などでいくつか見聞きしました。ただ、それはメディアの責任でもあると思うのですが、やっぱり選手に聞こうというふうにはならないんですよね。結局、主役であるはずの選手がどう考えているかが見えてこない。

早見 高野連は全校一斉アンケートを実施したらいいと思うんですけどね。ただ、絶対条件がひとつだけあります。それはチームメイトと話し合って書くなということです。他の選手に「どうする?」って聞いたら、その瞬間に何らかの集団心理が働いてしまう。あなたはどう思うかということだけを聞きたいんです。