多くの職員がAさんの告発文書は嘘ではないと声を上げた

これだけではない。

Aさんは告発文書に、昨秋のプロ野球阪神・オリックスの優勝祝賀パレードの資金集めのため、当時の片山安孝副知事が中心になって県内の金融機関に補助金を増額する見返りに寄付をするよう求めたとの情報があることや、斎藤知事が初当選した2021年の知事選挙で県幹部が事前運動していたとの疑惑も記していた。

事実なら背任や公職選挙法違反罪にも抵触しかねない深刻な問題なだけに情報を知る者は限られているとみられていたが、これらも直接、間接的に知っているとの回答が多くあるという。

Aさん処分に至る決裁文書(撮影/集英社オンライン)
Aさん処分に至る決裁文書(撮影/集英社オンライン)

県関係者は「百条委で証言してもいい」と言っている職員も多数おり、より詳細な証言が今後出てくる可能性があります」と話している。

数多くの部下職員から指弾された斎藤知事は、8月20日の記者会見で受け止めを聞かれると「8月23日に(アンケート集計結果が)正式に発表されるとうかがっています。現時点で内容を把握してませんからコメントを差し控えたい」とかわした。

エレベーター前でキレたことはないのかと詳細を問われると「そういったことをした認識はないと思っています」と言いつつ「仕事ですから、やっぱり厳しく指導するということは、良い業務、サービスを県民のみなさんに提供していく以上、必要だと思っています」とも述べた。

重要なのは、これだけ多くの職員が「Aさんの告発文書は嘘ではない」と声を上げたことだ。

斎藤知事は、Aさんが県当局の聴取に「噂話を集めて当該文書を作成し、配布したということを認めた」と8月7日の記者会見で言明した。さらに、「(告発が真実だと)信じるに足る相当な理由が存在しない」と付け加え、Aさんを公益通報者とみなさず処分したことは正しかったと主張している。

だがAさんは生前、告発文書の内容を精査してほしいと県に求め、事情聴取自体も県が実施したと主張する時期には受けていないと書き残している。Aさんの具体的な供述内容の開示を求められた斎藤知事は8月7日の会見で「公開できるか、どこまでできるかも含めて、対応を検討したい」と答えている。

しかし、8月20日の会見では「情報公開条例に基づいて詳細な人事関係のやり取り等をこの場で提示するということは難しい。ただ、裏付けとなる調査記録は確実に存在します」と述べ開示を拒んだ。

「噂話を集めた」とする部分だけを口にしたことについては「それは、今回の公益通報と懲戒処分に関して、我々としては『信じるに足る理由が存在しない』ことを説明するために、そこはキーとなるところなので、時系列の中で説明した」と説明。知事に都合の良い部分だけを“つまみ食い”した説明を正当化している。

令和5年の漢字を「勢」と掲げた斎藤知事(本人SNSより)
令和5年の漢字を「勢」と掲げた斎藤知事(本人SNSより)

一方、公金支出の正当性が問われる事態となった優勝祝賀パレード問題は、アンケートとは別に県当局の説明によって疑惑が一層深まっている。

この問題は、コロナ禍などで資金繰りに困り無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)を受けた中小事業者に対して、金融機関が支援すれば1件当たり最高10万円の補助金が支給される県の「中小企業経営改善・成長力強化支援事業」が舞台になっている。

県側がこの補助金をつけた金融機関に、パレードの協賛金をキックバックするよう求めたというのが疑惑の柱だ。