多大なストレスに山奥で暮らす患者も

インタビューに応じる渡井健太郎医師
インタビューに応じる渡井健太郎医師

渡井医師は続ける。

「同僚の医師が『一番なりたくない病気は何だろうと考えたとき、化学物質過敏症かもしれない』と言っていました。命にはかかわらないけれど、生きているほうが当然いい……とはなかなか思えない。また診療に当たる医療従事者側も、多大なストレスから人に対して攻撃的な一部の患者への対応で心をすり減らし、最後はもう診られないと診療拒否に至るケースもあります。化学物質過敏症とは、患者にとっても医療従事者にとっても非常に過酷な病です」

となれば、なおさら一日も早い治療法の確立が望まれるが、大規模な臨床試験に基づく科学的根拠に乏しく、現段階では化学物質過敏症に保険適応の治療法はない。

「発症につながる根本的な原因がはっきりしていない、それが大きな理由です。患者さんが反応しやすいものとして洗剤や柔軟剤に含まれる香料、またここ数年ではコロナ禍以降頻繁に使われるようになった消毒用アルコールなどの揮発性物質がありますが、ではそれらを排除した生活を送ればこの病が治るかといったらそうでもない。これらがきっかけで引き起こされてはいても、それ自体が根本原因とは言い切れないのです」

化学物質などからの曝露(さらされること)を避けるため、人里離れた山奥で生活しているという患者がいる。でもその生活を続けていたら治るかというと、治ってはいないのだという。あくまで回避にすぎず、転地療法や対症療法ともいえない根本の解決策ではないからだ。