問題を深刻化させた小林製薬の自己解釈

結局、小林製薬は4月に東京地裁所長などを務めた大物弁護士らによる事実検証委員会をつくって調査を開始。同委が7月22日にまとめた調査報告書を基に、23日に取締役会を開き、報告書に沿う形で会社の立場を表明した。問題を組織的に隠蔽しようとの意図はなかったとしながらも、

①健康食品の安全性に対する意識が不十分
②今回問題発生後、行政への報告は「因果関係が明確な場合に限る」と考えて原因究明に注力し健康被害発生・拡大防止を最優先に考えることができなかった

ことなどで消費者への注意喚起や製品回収の判断が遅れたと認めている。

その上で今回の問題に「適切な対応を行えなかった」として被害者らに「心より深くお詫び申し上げます」と謝罪した。3月29日の会見での小林社長の主張や会社の対応を間違いと明確に認めた形だ。

小林製薬(撮影/集英社オンライン)
小林製薬(撮影/集英社オンライン)

「大きな流れでは当然の結末ですが、報告書にある同社の具体的な対応を見ると、製造から問題への対処まで、驚くようなことが明らかになりました」

そう話す在阪記者が報告書を読み解く。

「1月15日の最初の報告は九州の病院に勤めるA医師からのものでした。透析治療中の患者が昨年12月初旬から問題のサプリを摂取し始め、2 週間程度で急性腎不全を起こしたとの内容でした。

連絡を受けた会社のお客様相談室は医師による重篤性の高い報告であるため安全管理担当者に連絡をしています。

A医師は1月17日には、摂取からの時間を考えれば急性腎不全と関係があるのはこのサプリしかない、と伝えましたが、安全管理担当者がA医師に会いに行ったのは2月29日になってから。

その場でA医師は、患者は尿細管間質性腎炎で、重篤度は『生命を脅かすもの』だと強い危機感を訴えています。この時から発表まで、さらに3週間以上かかっているのです」

2月1日には日大学医学部腎臓高血圧内分泌内科の阿部雅紀主任教授のチームが日大板橋病院(東京都板橋区)で昨年12月以降に紅麹コレステヘルプを摂取した3人が急性腎障害を起こし治療を受けているとの情報を会社に報告している。

このとき病院側が小林製薬に「過去に『紅麹コレステヘルプ』を服用して同様の腎障害が起きた患者さんがいないか」と尋ねたが、同社は「特にそういった報告はないようです」と回答し、ここでも適切な対応はなされなかった。(#4

阿部雅紀主任教授(撮影/集英社オンライン)
阿部雅紀主任教授(撮影/集英社オンライン)

この日の会社の行動について調査報告書は、「安全管理部長」と「信頼性保証本部長」らがこの情報を知りながら「因果関係が不明であるため現時点で行政報告は不要」との方針を共有したと指摘している。

「因果関係がわからないうちは行政への報告も回収もしない、というこのナゾの“指針”はその後も会社の行動を縛り続けます。食品健康被害が発生したときの国の報告のガイドラインにはそのような基準はどこにもないのに、小林製薬は勝手に解釈してこの指針を守ってきていたと調査報告書は指摘しています」(在阪記者)