強いられたシングル
この点において、現在の35歳から64歳までの年齢層に相当するシングルは、共同体がその持続のために要請する重大な社会的責任のひとつを果たしていないことになる。しかし同時に、この世代がかかる責任を果たし得なかった理由を「当事者の選択」だけに求めるのも妥当ではないだろう。
なぜなら、この集団を「結婚しない/できない」生き方【4】に誘導したもう一方の当事者は、日本社会の将来設計を怠った政府・官僚、国会を構成する与野党、自社の金儲けのためだけに大量の非正規雇用者を生み出し、下請け企業やフリーランスを不当に扱ってきた大手企業(高所得・正規雇用者の集団)、多様性の名のもとに「標準世帯」の社会的価値を貶めることに熱中してきたマスコミやアカデミアであるからだ。
子供を持つか持たないか、結婚するかしないか、誰かと共に暮らすか、ひとりで暮らすか。どのような生き方も否定されてはならない――シングルが増殖した要因の分析も、行く末の想定も緻密におこなわれているように感じられる「東京ミドル期シングル~」の切れ味を鈍らせているのは、やはりポリティカル・コレクトネスの被膜なのである。
悲惨な末路
同書は、シングルたちの行く末を次のように分析している。
〈シングルが高齢になると、家族・親族は亡くなっていきます。自身が自分の家族を形成しないと、家族・親族に基づく親密圏は縮小していく、または、なくなっていきますので、行政サービスや市場サービス以外に、家族や親族に代わるような社会的コンボイ(サポートが提供されたり、受け取られたりする支え合いのネットワーク)の存在の必要性が高くなるでしょう。
その点では、現状では、多くのシングルにとっては、手段的サポートは家族・親族中心であって、他人(友人・知人)に頼るといった人間関係が多くはないといえます。それは、従来の家族・親族中心の親密圏以外の新しい親密圏が特に東京区部のミドル期のシングルに形成されているかという問題になりますが、これらの集計結果をみる限り、その可能性は低そうです。よって、もし親族に頼ることができなくなれば、誰にも頼れず、行政サービスや市場サービスに頼るしかなくなるというのが、ミドル期シングルの置かれている現状といえましょう〉【5】
丁寧な言葉遣いではあるが、ようするに人並み以上の金を稼いでいるごく一部を除き、ほとんどのシングルには「悲惨な末路」が待っているということだ。
〈人間関係の種類でみると、男性で4割強、女性で2割が人間関係の数が極めて少ない孤立型、孤立予備軍でした。さらに休日の過ごし方をみた結果では、ひとりで過ごす「おこもり型」が半数を占めていました(…)これらのシングルは、低学歴、低所得、無業、東京区部以外の出身者、友人知人が少ない、電話やSNSで交信しない、サポートネットワークが弱く、精神的・身体的に健康といえないという傾向があることがわかりました。経済的脆弱性と社会的孤立が表裏一体となっていることが想像できます〉【6】