ホームズ作品のイレギュラーだけど、シャーロキアンも楽しめる
――話題は変わりますが、先生は読切作『アップサイド・ダウンタウン』でも「磁刀会」という『ガス灯』にも登場する中国マフィアを登場させていますよね。なにか思い入れがあるネーミングなのでしょうか。
実は…まったくないです。中華系の組織の名前を作るのって、すごくめんどくさいんですよ(笑)。実在しなくて、中国っぽいテイストで、日本語としても音で読みやすくて、字面から悪い雰囲気を出したいとなると、もう本当に大変で。
以前『恋澤姉妹』という小説を書いたときにも中華系マフィアの名前をたくさん考えたのですが、そのときにもうこれは嫌だと。なので、読切で考えた名前を再利用しただけです(笑)。
――意外な理由でした(笑)。では続いて、『ガス灯』内で「靴」をキーアイテムにしているのはなぜですか?
これもシンプルで、当時の貧しい少年たちの象徴といえば靴磨きかな、というところから。第1話で、リューイが「あんたらが下を向かないことはよくわかった」と言うシーンがありますが、足元ばかり見てきたリューイにしかできない推理がたくさんあるだろう、という考えもあります。
――今後もたくさんの事件が起こると思うのですが、靴をキーアイテムにすることが、シナリオ作りの難易度を上げるような気もしますが。
それは薄々思っていますね(笑)。でも、靴とミステリーって結構相性がいいんです。実際、ホームズの原典でも足跡が手がかりになる作品が複数ありますし。
すべての事件に靴を絡めるのは無理かもしれないけど、できる範囲で、ここぞというところではキーアイテムにしていこうかなと。
――少々ネタバレになりますが、最新刊3巻では、ホームズの相棒としておなじみのワトソンが登場します。ということは、今後『シャーロック・ホームズ』と『ガス灯』の時間軸が重なっていくことになりますが、『緋色の研究』など、“原典”の事件も描かれていくのでしょうか。
順番はバラバラになっていきそうですが、その予定です。ちなみに、1、2巻でも「語られざる事件(『シャーロック・ホームズ』シリーズ内で、セリフ等で言及されるがコナン・ドイル自身によっては書かれなかった事件群)」をモチーフにした事件を書いています。
アルミニウムの松葉杖とか、ヴァンベリーというワイン商人が出てくる事件とか。ほかにも、アビーが巻き込まれるサーカスの事件は『覆面の下宿人』がベースになっていますし、3巻に少しだけ登場するフェルプスという人物は『海軍条約文書事件』のキーパーソンです。
――つまり、シャーロック・ホームズファンがニヤリとできるポイントが散りばめられていると。
そうですね。ホームズのデザインから何からイレギュラーだらけの作品ですが、ぜひ拒否感を覚えずに、シャーロキアンの方々にも読んでいただきたいです。
――では最後に、『ガス灯』ファンにメッセージをお願いします。
3巻の時点では「『シャーロック・ホームズ』の定番キャラクターたちがやっと揃ってきた」という段階で、まだ序章です。
実は起こる事件の場所もロンドン北西部に限定していて、外側に未知のマップが広がっています。リューイ達の成長とともに、少しずつストーリーを動かしていきたいです。お楽しみに。
取材・文/関口大起 撮影/恵原祐二