歯はそもそも「増える」特性を持っていた

――そもそも歯を生やすという発想のきっかけは何だったんですか?

高橋克(以下同) 実は1990年代に、歯は1つの遺伝子の変異で数が増えたり、減ったりすることがわかっていました。そのことを勉強しようと、歯科医師として働きながら、京都大学の大学院に進み分子生物学を、その後アメリカに留学して発生生物学を学びました。歯を新たに生やすというのは歯科医師としての夢です。

――その夢に向かって研究を続けるうちに、どんなことがわかってきましたか?

歯は生える数が決まっていて、全部で32本(親知らずを含む)あります。しかし、もともと数が足りない先天性無歯症という患者さんがいて、その割合は全体のおよそ1%くらいなんです。また、逆に歯が32本より多くあるのを過剰歯といって、やはり1%くらいいます。歯の数は決まっているはずなのに、増えたり、減ったりといった揺らぎ(余地)があるんです。

※先天性無歯症:生まれつき一部の歯が生えない症状

歯のイメージ 写真/AC
歯のイメージ 写真/AC
すべての画像を見る また、歯は分類でいうと心臓や肺、膵臓とかと同じく、「臓器」なんです。噛むという機能だけでなく、体調に影響を及ぼします。例えば、肺は2つありますが、先天的に1つしかない人は1%もいません。逆に、3つある人も1%もいないんです。つまり、歯は増えたり、減ったりする可能性が高い臓器といえるのです。加えて、歯は成長の過程で、乳歯から永久歯に生え変わります。つまりリニューアルできるシステムを持っているわけです。

先ほど言いましたが、1つの遺伝子の変異で歯が1つ増えるということがわかっていたので、少なくとも歯が生えることに関しては、可能性があるんじゃないかと思ったんです。

――歯生え薬は、どのようにして歯を生やすのでしょうか?

私たちの歯は永久歯が抜けると生えてきません。これは、USAG-1というたんぱく質が歯の成長を抑制しているからなんです。

歯は芽さえあれば生えてきます。だから、このたんぱく質の機能をなくせば歯が生えてくるということになります。そこでこのたんぱく質をターゲットにして、歯を増やすということを思いついたのです。

がんの治療で、がん遺伝子によって発生するタンパク質を標的にして増殖しにくくする、分子標的治療というのがありますが、歯を生やすのも同じようにターゲットを絞ります。