無記名の割引債とは?
かつて、無記名の割引債という金融商品が存在しました。
無記名の割引債とは債券の一種で、額面から利子相当分を差し引いた金額で購入し、償還時に額面金額が払われる債券です。
たとえば、900万円で無記名の割引債を買っておくと、満期時には100万円がプラスされ1000万円になって償還されるというものです。つまり額面金額と発行価額の差が実質上の利子となります。
具体的にはかつての東京銀行から「ワリトー」、みずほ銀行から「ワリコー、リッキー」、商工中金から「ワリショー」などの名前で発行されていました。
現在はマネーロンダリング防止のため、無記名のものは新しくは発行されていませんが、かつては非常に人気の高い商品でした。
今から20年近く前になりますが、相続財産隠しに巨額の割引金融債が使われていたのが発覚したことがあります。財界の大物の財産約40億円のうち16億円あまりを隠し、相続税約10億円を脱税したとして相続人である長男が相続税法違反の罪で在宅起訴されたのです。
それに使われたのが割引債でした。
もう所持している人は少ないと思いますが、今でも税務調査で割引債が見つかることはあります。税務署は被相続人の死亡前の預金の動きをチェックします。預金が引き出されていて行き先が不明なものは割引債になっていると推定します。とはいえ、無記名なのでお金の出どころははっきりしません。
そこで税務署は銀行からお金が引き出された日と同じ日に割引債を購入した痕跡を発行元に求め、徹底的に調査します。
たとえばある日、銀行から2億円が引き出され、それと同じ日に無記名なので誰なのかわからないけれども、2億円の割引債が購入されていた、となると「これだ!」となるわけです。
このあたりの税務署の調査力にはいつも感服させられます。
ちなみに無記名とはいえ割引債の発行元には本人を特定するのに便利なヒントもあるようです。
また、被相続人が生前銀行から借金をしたときに、割引債を担保に入れていることもあります。担保は記録に残っているので、割引債を買ったことが判明するというわけです。