感情の矢印を2方向に向ける
私の米津玄師に対する感情が少しは伝わったでしょうか。米津玄師は元々「ハチ」という名義でニコニコ動画を中心に活動していた「知る人ぞ知る」存在だったのです。それがいつのまにか、誰もが知る国民的アーティストへと変貌していました。
地下に潜んでいたはずの音楽の化物が地上の人間に擬態し、我々アホにもわかりやすいような曲を作り、それがまんまと歴史に残るヒット作になってしまう。さらにこの『Lemon』を皮切りに、出す曲出す曲で特大のヒットを飛ばしている……私はそれがものすごく怖い。
もはや軽々しく「ファン」などという言葉すら使えませんでした。
まさに「恐怖」。
他人に伝染する「好きすぎて怖い」
そして、この「好きすぎて怖い」という「恐怖」の感情は他人にも確実に伝染していきます。
例えば、「◯◯が好き」という想いを第三者に伝えるとき、その感情の矢印は一方向にしか向けられていません。会話の例を用いて説明しましょう。
例A(通常)
「俺さ、リンゴがマジで好きでさ〜」
「へぇ〜、なんで?」
「だって甘くておいしいじゃん!」
これでは、俺がどれだけリンゴが好きで、そのリンゴがどれだけ甘いのかが全く伝わりません。「だから何?」としか思われない。
しかし、この感情を「恐怖」として伝えるとこうなります。
例B(恐怖)
「俺さ……リンゴがマジで怖いんだよ……」
「え……? な、なんで……?」
「いくらなんでも甘すぎる……あの甘さは常軌を逸してる……」
例A(通常)は「好き」という感情しかありませんが、例B(恐怖)は「好き」と「怖い」が混在し、感情の矢印が2方向に向いているのがわかるでしょうか。
「好き」だけを相手に伝えても、相手がその対象に興味がなければそこで話は終わってしまいますが、このように「好き」に「怖い」を混ぜることで、相手に2つの方向からアプローチをかけることができます。「そんなに恐怖を感じさせるほどおいしいリンゴだったら一回食べてみるか……」と思わせるチャンスが増えるのです。
これは会話の例ですが、文章でも同じことです。大切なのは「恐怖ポイント」を見つけることです。
対象のどんなところに最も恐怖を感じているのか。
アーティストなら「曲」なのか「声」なのか「歌詞」なのか「制作過程」なのか「生い立ち」なのか。それを知り、深掘りすることで、自分にしか書けない快文が完成します。
文/かんそう 写真/shutterstock













