会長職を解かれ、裁判で4年の実刑判決

裁判の過程で、私はギャンブル依存症だと認定されましたが、私はなぜこれほどギャンブルにハマったのか。150万円を23億円に増やした話などをすると、「なぜそこで止めなかったのか」とよく聞かれます。150万円が300万円になったとき「車が買えるぞ」とか、1億円勝ったときに「タワマンが買えるぞ」とか考える人は大丈夫、ギャンブルにはハマりません。でもギャンブルが好きな人間は、金がほしくて、なにかを買いたくて、ギャンブルをやっているわけではないのです。

ギャンブル依存症は遺伝もある、という報道がありましたが、私の場合は遺伝ではなく、生育環境が関係したのではないかと思いますね。小学4年生のときに家族麻雀をしたのが最初のギャンブルで、筑波大学付属駒場中・高校時代はパチンコや麻雀、東大法学部時代も麻雀を楽しんでいました。パチンコや麻雀はギャンブルじゃない、といった国会答弁もかつてありましたが、それは詭弁というものです。

過去の原体験について語る井川氏
過去の原体験について語る井川氏

とことん追及するのが好き、という性格もギャンブルにハマりやすいのかもしれません。私は子どもの頃から釣りや切手収集にハマっていました。刑務所に収監されているときは車に夢中になり、車雑誌や書籍をむさぼり読み、シャバにいる友人に頼んでフェラーリの限定モデルなど20台近くの高級車を買いあさっていました。

ところが、2017年6月に刑期満了を迎えた翌年、韓国のカジノへ出かけていき、種銭を作るために車を1台ずつ売り始めると、あるとき急に憑き物が落ちたようにバカらしくなって全部売り払ってしまいました。じゃあ、大金使って大損をしたか、というと、そうではないんですよ。車は買ったときより高く売れて、損はしていないんです。でも損得云々より、追求型の性格の私は、なにかに夢中になって追求すること自体が楽しいのだと思います。

ただ、私と同じように育ったはずの弟(大王製紙元取締役)はギャンブルにハマっていません。弟も追求型の性格ですし、カジノに行ったこともあります。カジノでしびれるような感覚を味わったことがないからかもしれませんが、カジノではなく他の物にハマっています。借金どころか、数百億円の資産があるので香港で悠々自適に暮らしています。じゃあどういう人がギャンブルにハマるか、ハマらないか、というと、理由はひとつではないですが、結局、ギャンブルが好きなんですね。

弟は一切カジノにハマらなかったという
弟は一切カジノにハマらなかったという
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カジノに夢中になっていた頃の私は、日本を発ちシンガポールやマカオの賭場が近づいてくると「今回はどこまで勝てるか」と胸が高鳴りました。私はギャンブルのなかでも、丁半博打に似た、運の要素だけで勝ち負けが決まるバカラが一番しびれるので好きなのですが、すぐに勝ち負けが出るのも性に合っていました。私は気が短いので(笑)。つまり、私の性格にピッタリ合ったギャンブルに出会って、ビギナーズラックもあって……。

結果、当時就いていた会長職を解かれ、裁判で4年の実刑判決を受け、3年2カ月の間、刑務所で過ごすことになったわけですが、ギャンブルに出会わなければよかった、とは思っていません。ギャンブルで破綻して自殺する人もいますが、私は生来、楽天的で前向きな性格のおかげか、逮捕が迫っていたときでも首をくくろうなどとはまったく思っていませんでした。そもそも正しい道だけ行く、という人生ほどつまらないものはないと思うのですよ。もちろん、もう一度刑務所に入るのはご免ですけれどね(笑)。

#3へつづく

取材・文/中野裕子 写真/村上庄吾