「起訴ってなんすか?」と聞く者が記事をつくっている
ところが一部のネットメディアは5月に入っても「トクリュウが絡んでいるのではないか」などと、現場を取材していれば書けるはずがない記事を出し続けた。テレビのワイドショーでも「元刑事」の肩書きをもつコメンテーターが最後までこうした説を開陳し続け、結果的に誤報に近い報道が続いた。
「実はメディアの中でも、事件取材にはカネがかかるとして現場をきちんと取材して報じるという作法が軽視され、取材できる記者がどんどん減っているんです。ネットで情報を得る人が主流になる中、記事の内容よりもPV(ページビュー)を増やすことが重視され、安いコストでPVを獲得するためにテレビやネット、他媒体で報じられた内容をつなぎ合わせ、現場に出ることもしないで書く“コタツ記事”が事件記事でも生み出されています。
トクリュウがどうのこうのという話も、テレビで元刑事などが話しているので取り上げやすいんでしょう。今回も、現場に全く記者を派遣しないネットメディアが平気で記事を出しており、これまで以上にコタツ記事が量産されました」
念のために触れておくと、今回「元刑事」らがコメントをしているワイドショーを放送しているテレビ局などは、事件担当記者を投入して現場取材にあたっており、元刑事らはこうした記者がつかんだリアルな情報を知らないまま推測を重ねているだけのようだ。
事件取材経験が長い社会部デスクは渋い顔でこう話す。
「事件はひとつひとつが別物なのに、過去に捜査経験があるというだけで、なぜ起きたばかりで背景もわからない事件についてあれほど自信たっぷりに話せるのか、意味不明です。とはいえテレビ番組は、世間の関心が高い事件は長尺になるので、それらしい“見立て”をしてくれる刑事がいないと番組が成立しないという事情がある」
先のベテラン週刊誌記者も今回あらわになった事件報道のコタツ記事化の裏で起きている事態を嘆く。
「大きな事件になれば、現場で取材をしたいと思っている記者はいますが、行きたくても予算や与えられた取材時間がなく行けないということが日常的に起きています。現場を回らなくても『PVがとれたら勝ち』という風潮が、部数が減り続けるスポーツ紙、週刊誌内にできつつある。事件取材のベテランは減る一方なのに若手も育たず、殺人や遺体遺棄、損壊の区別がつかないどころか『起訴ってなんすか?』と聞く者が記事をつくっている。このままじゃいけない、とみな思っているのですが…」
ネットには数多くのニュースがあふれているが、足を使って記者が現場を取材して書いた記事を書き写すだけのコタツ記事がはびこるようになれば、現場取材をやめる動きに拍車がかかりかねない。2人の人間が殺害されて遺体が焼かれ、6人が逮捕されるという大型事件で、事件記者らが抱える苦悩も浮き彫りになって来た。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班