経歴がまったく異なる4人の副操縦士が誕生

ピーチの養成プログラムは、2018年に初の募集が行われ、採用された候補生は2019年から訓練を開始した。それから5年を経て、2024年1月には本プログラムに参加した訓練生から4人の副操縦士が誕生している。

彼らの経歴は実にさまざまだ。1人は大学の新卒生、1人は元製薬会社のMR(営業担当)、1人は元IT企業のシステムエンジニア、そしてもう1人は学校の教員だった。年齢も28歳から33歳まで(2024年現在)とバラバラだ。

ピーチの養成プログラムを経て晴れて副操縦士となった第1期生
ピーチの養成プログラムを経て晴れて副操縦士となった第1期生

実は、これまで大手航空会社が行なっていたパイロットの養成プログラムは、すべて新卒生が対象だった。新卒生以外にも門戸を広げたのは、国内ではピーチが初だった。

新卒でプログラムに参加し、今年副操縦士に昇進した松永大輝さんは、応募の動機を次のように振り返っている。

「パイロットという職業に対して、大学進学までは漠然とした憧れにとどまっていましたが、学生時代に旅客機を利用する機会が増え、具体的に目指したいと思うようになりました。実は鉄道会社への就職の道もあったのですが、ピーチの養成プログラムは、ほかの方法でパイロットを目指すよりも経済的な負担が少なく、願ってもない機会でした」

パイロットに限らず、別の道を進んだあとに、もう一度夢を目指す人は多いだろう。しかしパイロットの場合、夢を実現させるハードルが非常に高かった。別の人生を歩き始めてから、数千万円もの費用を捻出してパイロットの道を選択できる人は、ごくわずかだろう。

ピーチの取り組みは、そういった経済的理由で断念していた人も含め、さまざまな経歴・立場の人にセカンドチャンスを与えるものとなる。

ピーチの自社養成プログラムは大きく分けて前半訓練と後半訓練に分かれる。前半訓練は海外で行われ、訓練費用は訓練生負担となる。この訓練費用に対して三井住友銀行のサポートローンが利用できる。
ピーチの自社養成プログラムは大きく分けて前半訓練と後半訓練に分かれる。前半訓練は海外で行われ、訓練費用は訓練生負担となる。この訓練費用に対して三井住友銀行のサポートローンが利用できる。

もちろん、実際に採用され、パイロットになるのは容易ではない。同プログラムの応募者数や競争率は公開されていないが、初年度のプログラムで副操縦士になったのがわずか4人という点から、そのハードルの高さが窺える。

それでも、経済的なハードルを下げ、年齢や職歴を問わずに応募できるこのプログラムが、非常に夢のある挑戦であることは間違いない。

実はほかの国内のほかの航空会社でも、ピーチ・アビエーションと同様のプログラムを展開する動きが出始めている。これに対し採用担当の和久津氏は、「日本の航空業界全体が成長するためには、パイロットの育成や確保が欠かせません。弊社の取り組みだけでは規模感としても足りていないので、自社養成プログラムがいろいろな航空会社から登場するのは、非常に喜ばしいことです」と述べた。

こうした取り組みが広がっていくことで、高い志を持ったパイロットが次々と育ち、迫り来る「2030年問題」をポジティブに乗り越えていくことを期待したい。

文/小平淳一 
写真提供/Peach Aviation株式会社