自社養成の金銭的負担をどう乗り越えるか

日本で航空会社のパイロットになるには、主に2つの方法がある。1つ目は、国の航空大学校や私立の大学・専門学校、民間のフライトスクールなどで学ぶ方法。2つ目は、航空会社がそれぞれ実施するパイロットの養成プログラムに応募する方法だ。

航空大学校や民間の教育機関では、学費などを学生側が負担することになるが、その場合は金銭面が障壁となる。費用はピンキリだが、たとえば私大の場合は、授業料だけでも年間約1300〜1800万円かかるとされている。

一方、航空会社が取り組むパイロットの養成プログラムでは、訓練にかかるコストを航空会社が負担するため、訓練生側の自己負担は少なくて済む。これはパイロットを目指す人にとってはありがたい。

しかし、その養成コストは、訓練生に代わって航空会社が請け負うことになる。国土交通省の資料によれば、自社養成で航空会社が負担する訓練コストは、1人あたり約4000〜5000万円にも上るという。そうした背景もあり、これまで国内では、日本航空(JAL)、全日本空輸(ANA)、スカイマークなどの大手航空会社だけがパイロットの養成プログラムを実施していた。

そうした中、ピーチは2018年より、LCCとして初めてパイロットをゼロから養成するプログラム「Peachパイロットチャレンジ制度 with AIRBUS」の実施に乗り出した(採用年は2019年)。

ピーチが展開する「Peachパイロットチャレンジ制度 with AIRBUS」。ANAと連携することで、質の高い訓練プログラムを提供する(ピーチはANAホールディングスの連結子会社)。
ピーチが展開する「Peachパイロットチャレンジ制度 with AIRBUS」。ANAと連携することで、質の高い訓練プログラムを提供する(ピーチはANAホールディングスの連結子会社)。

ピーチのパイロットチャレンジ制度採用担当・和久津賢太氏は、同プログラムの立ち上げ背景に関して、次のように語る。

「弊社のパイロットも、2030年に定年を迎える世代が多い。創業期より航空大学校などから採用を続けてきましたが、今後はどうしてもそれだけでは賄いきれません。『2030年問題』は決して他人事ではなく、ゼロから自社でパイロットを養成する仕組みが必要でした」

Peach Aviation株式会社 人材戦略部 乗員採用課 パイロットチャレンジ制度採用担当の和久津賢太氏
Peach Aviation株式会社 人材戦略部 乗員採用課 パイロットチャレンジ制度採用担当の和久津賢太氏

同プログラムは、訓練生が訓練費用の一部を負担することで成立している。ただし、訓練生には訓練期間中に大卒初任給程度の手当が毎月支給されるなどの実質的な負担軽減措置があるうえ、三井住友銀行が提供する低金利のサポートローンも利用できる。

これらの仕組みにより、パイロットを目指す人は学校で学ぶよりも自己負担を抑えられ、ピーチ側も養成コストを軽減できる。双方にとってメリットのあるプログラムというわけだ。