活動のモチベーションは何か

水野 今日お話ししていて、三宅さんの活動のモチベーションが少しわかった気がします。

三宅      ちなみに、YouTubeの運営って、本当に手間がかかるじゃないですか。「ゆる言語学ラジオ」を続けるモチベーションはどこから来るんですか。

水野      単に、僕が相方の堀元さんに面白い話をしてやりたい、という思いが一番大きいかもしれないです。言語学者の先生とお会いすると「この学問を広めてくれてありがとう!」と言っていただけるんですけど、言語学のアウトリーチみたいな意識はほとんどない。
 ただ、こういう活動をしてて、思いのほか社会的に影響力があるぞ、と思ったので、本を読む習慣がないとか、本を読まないことをコンプレックスに思ってる人に対してコミュニケーションをしたい、と後から思うようになりました。それが、今のちょっとしたモチベーションになっています。
 三宅さんはどうですか?
 

三宅      うーん、本の読み方や文章の書き方を伝えるのは、自分の好きなものや好きな行為を伝えたいし、自分と同じような好みの人を増やしたい、からかな。たとえば世界がオセロみたいなものだとすると、私と同じ好みの側……白陣営を増やしたい、的な(笑)

水野      為政者の発想だ。

三宅      今のところ、敵は多いので(笑) 黒を減らそうとするより白を増やそうとすべきかなって。

水野      三宅さん、いつか出馬でもするんじゃないですか?

三宅      本を書く方が絶対楽しいですよ(笑)

日本社会は「全身全霊」を信仰しすぎている?「兼業」を経験した文芸評論家・三宅香帆と「ゆる言語学ラジオ」の水野太貴が語る働き方_5
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人生は「オセロゲーム」?

水野      ちなみに仕事選びも、オセロ感覚で選びました?

三宅      えー、そうかもしれない。私は就活する前に本を書く仕事を始めていたので、マーケティングの知識が本の宣伝に使えるかなと思って(笑)

水野      究極的なオセロだ。怖いですね。僕はもう白ですから、どうかひっくり返さないでください!

三宅       出会った人みんなに好きなものを薦めたいだけなんですよ! そういえば昔、修学旅行のときにお台場に行ったんですが、空き時間にやることがなくて、本屋に行って友達に本を薦めてた思い出がある。当時から自分の好きなものを理解してくれる人を増やしたかったんですね。

水野      それも、オセロ感覚なわけだ(笑) もしかして、今日の対談、僕がひっくり返されてましたかね?

三宅 どうでしょうか? ちなみに水野さんは、『言語の本質』が新書大賞になることを、SNSでいちはやく予言してしましたよね。『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』は……

水野 えっ。でもまだ、上半期ですもんね……
 

三宅 『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』はどうですか?

水野 ……新書大賞、獲ります!もう3回くらい獲りますよ、ここから毎年。殿堂入りします。

三宅 そうですよね。よかったです。

水野 あぶない、またひっくり返されかけてた。
 それはさすがに冗談なんですが、現代の読書や教養、働き方を語るうえでよく参照される本になるのは間違いないでしょう。読み終わったとき、思わず仲のいい書き手の人に電話しちゃいましたもん。その人も教養についての本の構想を温めているので、「すごい本が出ますよ。急いだほうがいいですよ!」って。

三宅 ありがとうございます。この本をきっかけに、たくさんの人が「本を読みながら働ける社会」について考えてもらえれば、と思います。

取材・構成:谷頭和希 撮影:内藤サトル

なぜ働いていると本が読めなくなるのか
三宅 香帆
なぜ働いていると本が読めなくなるのか
2024年4月17日発売
1,100円(税込)
新書判/288ページ
ISBN: 978-4-08-721312-6
【人類の永遠の悩みに挑む!】
「大人になってから、読書を楽しめなくなった」「仕事に追われて、趣味が楽しめない」「疲れていると、スマホを見て時間をつぶしてしまう」……そのような悩みを抱えている人は少なくないのではないか。
「仕事と趣味が両立できない」という苦しみは、いかにして生まれたのか。 自らも兼業での執筆活動をおこなってきた著者が、労働と読書の歴史をひもとき、日本人の「仕事と読書」のあり方の変遷を辿る。
そこから明らかになる、日本の労働の問題点とは? 
すべての本好き・趣味人に向けた渾身の作。

【目次】
まえがき 本が読めなかったから、会社をやめました
序章   労働と読書は両立しない?
第一章  労働を煽る自己啓発書の誕生―明治時代
第二章  「教養」が隔てたサラリーマン階級と労働者階級―大正時代
第三章  戦前サラリーマンはなぜ「円本」を買ったのか?―昭和戦前・戦中 第四章  
「ビジネスマン」に読まれたベストセラー―1950~60年代
第五章  司馬遼太郎の文庫本を読むサラリーマン―1970年代
第六章  女たちのカルチャーセンターとミリオンセラー―1980年代
第七章  行動と経済の時代への転換点―1990年代
第八章  仕事がアイデンティティになる社会―2000年代
第九章  読書は人生の「ノイズ」なのか?―2010年代
最終章  「全身全霊」をやめませんか
あとがき 働きながら本を読むコツをお伝えします
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