高血糖より危険な低血糖

血糖値が気になるからと、甘いものはもちろん、糖質が多く含まれる炭水化物もできるだけ摂らないようにしているという女性は少なくありません。

確かに高血糖が高じて重症の糖尿病になれば将来的に命に関わることもありますが、高齢者の場合は、低血糖による害のほうがはるかに大きいのです。

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例えば「朝食抜き」の子どもは成績が下がるとよく言われますが、あれも朝食を抜いたことで昼食を食べるまでずっと低血糖状態が続き、そのせいで脳にブドウ糖が届かず、午前中の授業を受けても頭がよく働かないからです。

血管が軟らかくて糖を吸収しやすい子どもでさえそうなるのですから、多少なりとも動脈硬化が始まっている60歳以上の人にとっての低血糖が、それ以上の悪影響を脳に及ぼすことは想像に難くありません。

実際、血糖値があまりに低くなってしまうと意識が混濁したり言葉が出なくなったり、あるいは失禁したりするなど、認知症のような症状が出てくることがあり、さまざまな体の臓器がダメージを受けたりするリスクも高まります。

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 私がかつて勤務していた浴風会病院では、高齢者の場合は高血糖より低血糖のほうがむしろ危険だというのが医師たちの共通認識で、高齢者の糖尿病に関しては、積極的な治療はしないという方針が取られていました。

もちろん併設する老人ホームの入居者なので、必要以上に間食することはなく、それなりに食生活が管理されていたことも関係していたように思いますが、血糖値が高くても生存曲線が下がるということはなく、それどころか、外来診療時には失禁など認知症の症状が見られた患者さんも、血糖値を下げる薬を減らしたりやめたりすると、認知機能が回復するという例も数多く見られたのです。

また解剖結果から糖尿病の人は認知症になりにくいことも明らかにされていました。そのような事実を鑑みても、やはり高齢者にとって、低血糖の弊害は決して小さくないのだと思います。

久山町研究と呼ばれる福岡県の久山町の住民を対象にした疫学調査では、糖尿病の人のほうが認知症になりやすいという、浴風会病院とは真逆の結果が出ているのですが、実は久山町の場合、糖尿病の患者さんはすべて治療しているとのことなので、要するに薬で無理に血糖値を下げているのです。

それが脳にダメージを与え、結果として糖尿病の人のほうが認知症になりやすいということになっているのではないかと私は思っています。


文/和田秀樹 写真/shutterstock

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