低迷する生産量と購入額…超ローカルな漬物は支援もなく消滅危機

そもそも漬物自体、生産量と購入額が減少傾向にあるという。

「2023年5月、農林水産省が発表した『野菜と漬物をめぐる状況』によれば、漬物の生産量は1991年の約120万tがピークで、その後ある程度の増減はありますが、全体的には減少傾向なんです。

2001~2002年に一度は1991年の水準近くまで回復するものの、また下がってしまっています。特に糠漬がかなり生産量を減らしていまして、代わりに浅漬けやキムチの割合が上昇。近年はコロナ禍による巣ごもり需要で生産量はアップしているものの、2022年の生産量は約80万tとなっており、全体的な推移としてはやはりだいぶ減ってしまっているのです。

そして、総務省の『家計調査』をもとにした一世帯あたりの漬物の購入額は、1983年時から2022年の約40年の間で3割近くも減ってしまっています。米の消費量減に伴って、漬物の購入額も減っていると考えられており、今後も数字を落としていく可能性もあります」

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漬物を取り巻く環境は我々の想像以上に苦しいようだ。だが、この状況を黙って見過ごせないと行動を起こしている自治体もある。

「いぶりがっこで有名な秋田県横田市や、漬物が特産品の島根県雲南市では、漬物製造に必要な機械・施設導入に要する経費を助成する事業を行っています。漬物の製造が盛んな地域では、漬物を重要な産業と位置づけて積極的に支援しようとする動きが目立っており、今後も継続的な製造・販売が期待できそうです」

ただ、自治体が動いてくれれば万事解決……という単純な話ではなく、どこの自治体でも援助ができるわけではないだろう。

「もともとの漬物の知名度やブランド力が高くないと、自治体も支援を行うことは困難です。加えて、国からの具体的な支援策はないので、地方自治体ベースで対策を練らねばなりません。自治体のなかには、職員の姿勢ややる気次第で如実に政策に影響が出てしまうため、漬物が有名な地域以外は支援が行き届かなくなり、ローカルな漬物はどんどん姿を消していってしまう可能性があるのです」

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その地域で脈々と受け継がれてきた漬物はなくなってしまうのか。漬物文化の将来について、国全体で考え直すべきと松平氏は指摘する。

「本来、漬物は多種多様な担い手によって作られる食品。各々の地域に残された味付けや製法は、実に幅広く、ブランディングされていないローカルな漬物でも美味しいものはたくさん残っています。そうした漬物がこの機会に失われてしまうのは痛ましいことです。

過去には今以上に豊かな漬物文化が残っていましたが、食の欧米化によるニーズの低下により、すでにこの世からなくなってしまった漬物も少なくありません。日本の食卓に欠かせない存在だった漬物という食文化の喪失はあまりにも大きいものです。今一度、漬物文化の継承について真剣な議論が必要ではないでしょうか」

取材・文/文月/A4studio 写真/shutterstock