社会保険料の使われ方

とはいえ、少子高齢化が進行している現状を鑑みると、容易く社会保険料を引き下げてもいいのだろうか。そもそも、神田氏は社会保険料の使われ方に懐疑的な姿勢を示す。

「『消費税は社会保障に100%充てる』と主張して自民党は消費税増税を推進しましたが、2019年1月に行われた施政方針演説の際、当時の安倍晋三首相は『「8%引き上げ時の反省の上に、経済運営に万全を期してまいります。増税分の5分の4を借金返しに充てていた』と話していました。つまりは消費税の増税分のほとんどは社会保障に使っていなかったのです。

消費税同様に社会保険料の使われ方にも不明な点は少なくなく、社会保険料も政府の借金返済に利用されていた可能性が想定されます。実際のところ、『社会保険料を社会保障のためにどれだけ使用しているのか』という詳細を政府が公表したという事実を私は知りません」

仮に政府の借金返済に使われたのであれば、せっかく稼いだ国民のお金が還元・再分配されることなく、市場からなくなったことを意味する。そうなると働くことがバカバカしくなるような使われ方といってもいい。

社会保険料は我慢して払うものなのか?

社会保険料の多角的な問題点が見えてきた。しかし、社会保険料の引き下げを求める声はあまり聞かれない。神田氏はその理由をこう分析する。

「これまで社会保険料の支払いに頭を抱えるクライアントさんを何人も見てきましたが、政府への不満を口にすることはあまりありません。むしろ『社会保険料は我慢して黙って払うもの』と認識している印象です。経営層だけではなく、一般人も同様の考えを持っているように思います」

そして、社会保険料を一度見直すためには私たち国民が疑問を持ち、声を上げることが必要であると訴える。

「昨年、インボイス制度が話題になった結果、消費税という税制に疑問を持ち、消費税廃止・減税を訴える人が格段に増えました。疑問を持ち、声を上げれば世論は変わります。『社会保険料って本当に必要なのか?』という疑問を持ちつつ声を上げ続ければ、社会保険料の理不尽な高さを見直す機運が高まるでしょう」

私たちの手取りを大きく減らしている社会保険料の在り方について考え直す空気感を作っていきたい。

取材・文/望月悠木