最低ランクの海外旅行先…北朝鮮旅行はそれでも中国人に人気だった

だが、このように縮小、チープ化している中国の海外旅行需要が逆に大きな商機になるはずだった国がある。隣国の北朝鮮だ。前出のガイド氏の話には続きがある。東南アジアや韓国といった、人気最低ランクの海外旅行先のその下がさらにあるというのだ。

「コロナ禍前まで人気を誇っていたのが北朝鮮だ。遼寧省・丹東から列車で平壌へ行き、板門店や金剛山などをバスで回る。旅費は国内旅行並み。外国旅行には手が届かないが日常を離れてみたいと思う人がやっと行けるのが北朝鮮だった」

北朝鮮
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一方、中国の40代の女性は「90年代以前の発展する前の中国の光景が北朝鮮にはそのまま残っていて、ノスタルジーを感じる」と話す。

さらに、1953年に休戦した朝鮮戦争に参戦した元中国人民志願軍兵士や、そうした父や祖父から参戦時の経験を聞いた人の中には、中朝が苦労をともにした地を訪れたいとの希望もある。

戦争時、北朝鮮を支援するために290万人もの志願軍を投入した中国は近年、対米関係が緊張する中で戦争時のスローガン「抗米援朝」を強調し、朝鮮戦争で人民志願軍が米軍を打ち負かすストーリーの国策映画やドラマも頻繁に作られてきた。中国人は核開発を続ける金正恩政権にうんざりしていると伝えられることが多いが、庶民の中で、特に中高年の男性には北朝鮮への親近感を隠さない人は多い。

その北朝鮮は2017年12月に大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射を理由とした国連安全保障理事会の制裁決議で、石炭などの地下資源と水産物という二大主力商品の輸出が封じられた。

そこで外貨稼ぎの目玉として拡大を図ったのが観光だ。19年12月にはスキー場や乗馬施設も併設した温泉リゾートが平安南道陽徳に完成し、金正恩・朝鮮労働党委員長(現総書記)が満面の笑みで完工式に出席した。

ところがその月の下旬には中国・武漢で新型コロナ感染者が爆発的に拡大。北朝鮮は年が明けた20年1月末には中国との国境の厳格な統制を始め、観光客の受け入れどころではなくなった経緯がある。

中国と北朝鮮、国境付近(写真はイメージです)
中国と北朝鮮、国境付近(写真はイメージです)

そのコロナ禍の影響もピークをすぎてから久しい。昨年7月からは中国やロシアの高官が平壌空港から入国し、隔離なしで金正恩氏と会うようになった。列車やトラックによる貨物輸送は以前の水準に戻っている。昨年8月には「国際観光を拡大する」との内容を盛る政令が採択されたと公表され、外国人観光客の受け入れ準備を進めていることが強調されていた。