生成AIの学習は合法なのか? 日本の著作権法における生成AIの学習の論点。今後危惧される「人間の声」のディープフェイク
昨今、企業の広告にAIで生成されたバーチャルヒューマンが起用されているが、そもそも法律的には問題ないのだろうか。いま現在の日本の法律では厳密に規制することは難しい状況だという。AIと倫理、法の規制をわかりやすく学ぶことができる書籍『生成AIで世界はこう変わる』より日本の現状と、物議を醸している「人間の声」のディープフェイクについて一部抜粋して解説する。
生成AIで世界はこう変わる #3
人間の「声」
ここまでの話は、著作権法により(議論はあれど)保護の範囲がある程度明確な画像などの著作物を対象としたものでしたが、その範囲がこれらほど明確な形で示されていないものも存在します。本書の執筆時点ですでに物議を醸している、人間の「声」がその例です。
現在の最先端の生成AIは、短い声のサンプルがあれば、学習対象による発声と区別がつかないレベルで自由にセリフや歌などの音声データを生成できます。人間の声は生得的で個人に特有のものであり、認証に利用されるなど個人の属性を強く反映するものです。
その点で、画像や音楽とは異なるレベルでの保護が必要であるとも考えられますが、AIによる声の学習や生成行為については、著作権だけでなく肖像権なども含めた複雑な要素があり、議論が続いている状況です。
現時点で出されている見解の1つは、無断でAIによって特定の声優、著名人などの声を生成して商用利用する行為については、それが当該人物の声と認識されるものであれば、パブリシティ権侵害に当たるというものです。特定の声優の声を無断で学習したAIによる発声や歌唱を公開するといった行為が発生していますが、この見解に基づけば、そのいくつかは規制の対象になる可能性が高いでしょう。
ここまで見てきたように、生成AIの学習や生成について、何もかもを法律で規制することは現実的には困難です。法的な規制が難しい部分は、生成AIの開発・利用者の努力義務にとどまるでしょう。
ただ、その努力義務に対する取り組みが、生成AIによるサービスを提供する企業にとっての価値の一部になることも考えられます。たとえば学習について、法的な一括規制は難しくとも、「学習に使用されたくない」という希望を受け入れ、学習データから除外する努力を開発側から行うことは検討されるべきです。
OpenAI社は、学習に使うデータを収集する「GPTBot」のクローリングをブロックするための手順を公開しています。加えて、学習データの透明性、著作権者への収益の還元なども、現実的な範囲で検討が進むことが期待されます。
図/書籍『生成AIで世界はこう変わる』より
写真/shutterstock
#1 すでに見抜けないAI技術 人かAIかは背景情報にしかなりえない
#2 「AIに聞けばなんでも解決する世界」
生成AIで世界はこう変わる(SBI新書)
今井翔太
2024年1月7日
990円
256ページ
ISBN:978-4815622978
新進気鋭のAI研究者が大予測! 生成AIで変わる私たちの仕事・くらし・文化
話題の生成AI、どこまでなにができる?AIって結局、どんなしくみで動いているの?
最新テクノロジーで私たちの仕事は奪われる?AIで働き方や生活がどう変わるのか知りたい…
ChatGPT、Bing、Claude、Midjourney、Stable Diffusion、Adobe Firefly、Google Bard…今世紀最大ともいえる変革を全世界にもたらした、生成AI。
この時代を生きるわたしたちにとって、人工知能をはじめとする最新テクノロジー、そしてそれに伴う技術革新は、ビジネス、社会生活、娯楽など、多様な側面で個々人の人生に影響を及ぼす存在となっています。
ただでさえ変化スピードが速く、情報のキャッチアップに苦戦するテクノロジー領域。数か月後には今の状況ががらりと変わってる可能性が非常に高い…そのような状況下で、今私たちは生きています。
ホットな話題でいえば、「クリエイターはみなAIに取って代わられるのでは?」「人間にしかできない価値創造ってなに?」など、これまで当たり前だと信じて疑わなかった「労働」「お金」「日常生活」などのパラダイムシフトが起こっています。
そんな今、まさにみなさんに手に取っていただきたいのがこの1冊です。この時代を生きる多くの方が抱いているであろう不安や疑問、そして未来への興味関心に、本書はお応えします。本書では、AI研究の第一人者である東京大学教授・内閣府AI戦略会議座長を務める松尾豊氏の研究室所属の今井翔太氏が、生成AIで激変する世界を大予測!