なぜ効果が出ないのか?
だとすれば、「医師が余る」ことへの対策はシンプルであるはずだ。
医師数の増加をもう一度、抑える方向に舵を切り直したうえで、引き続き、偏在対策を進める。一方で、そもそも医師需給分科会が6年以上、40回も、明確な道筋をつけられないまま続いたこと、臨時定員増がいまだに延長を重ねていることなどからも、この問題が簡単には解決できないことがわかる。
2022年1月の第40回医師需給分科会で、座長の片峰茂氏は「医学部定員の適正化の道筋をつけることが達成できなかったのは、座長として忸怩たる思い」と振り返っている。
そもそも、医療業界には医師受給を巡り、さまざまな立場がある。
たとえば、2016年9月の厚労省の社会保障審議会(医療部会)では、医師数の増加について、日本医師会は反対、病院団体は賛成した。医師会は開業医の利益団体で、医師数の増加が競合の増加につながる一方、病院団体はミクロの医師不足の影響を大きく受けるため、働き手の増加は歓迎するという構図だ。
それぞれの立場の利害が絡むことで、医師数の増加すら、今のところは抑えられていないとも見られる。特にコロナ禍では、自治体の首長が「医師数の増加の抑制」に忌避感を示すシーンもあった。これも、ミクロの医師不足を反映したものだろう。
偏在対策としては、医学部入学時に特定の地域や診療科で診療することを条件とした定員を設け、それを破れば奨学金などの返済義務を負わせる、いわゆる「地域枠」のシステムがある。また、臨床研修においては、都道府県別に臨床研修医の採用上限数を設けることで、研修医が大都市に集中することを回避するシステム、さらに専門医研修でも、都道府県別・診療科別に採用上限数が設けられ(シーリング)、それを超えた場合は医師不足地域などに回るシステムもある。
要するに、何かしらの縛りを設けて、医師の働く場所を制限しているというわけだ。これらは効果がないわけではないが、偏在の解消には至っていないからこそ、「医師不足」が叫ばれてしまうともいえる。
いずれにせよ、予測されている「医師が余る」という事態は、避けなければならないだろう。医師数の増加を抑制するのはいつになるのか。そして、職業選択の自由がある中で、偏在解消のための縛りをより厳しくすることは実際にありうるのか。いざというとき安心して病院にかかるためにも、もはや他人事ではない。
<参考文献>
“令和7年度医学部臨時定員に係る方針について”|厚生労働省,第13回地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループ,2023年11月9日
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001165498.pdf
“第47回医療部会”|厚生労働省,社会保障審議会(医療部会),2016年9月14日
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000149697.html
文/あまのなお