登山ガイドが見た「登山客のありえないエピソード」
日頃から登山ガイドをしていると、ときには“ありえないエピソード”を聞くという。
「この前ガイドした20代のお客さまは、過去に岐阜県と滋賀県にまたがる伊吹山の八合目で滑落したことがあるそうです。積雪期の伊吹山五合目から上は、雪崩が起きてもおかしくない急な斜面を登るので、前爪付きアイゼンとピッケルが必要です。
しかしその人は、爪の長さが短いチェーンスパイクと、通常登山用のストックしか持たずに登ったため、下山時に滑落してしまいました」
その登山客はいったん死を覚悟したものの、ストックで減速しながら奇跡的に六合目付近にある木につかまり、助かったという。
たまに、登山者が自身のブログで「チェーンスパイクとストックだけで、草木も生えないような森林限界以上の雪山に登った」と書いているようなことがある。しかし「たまたまそのときは大丈夫」だっただけのこと。鵜呑みにするのは危険だ。
また上田さん自身、“ありえない登山者”と出会ったこともある。
「雪山登山のガイド時には、お客さまに詳細な持ち物リストを渡していますが、七分丈パンツに夏山用の登山靴といった服装で、防寒着も不十分な状態で参加しようとした方がいました。雪山で肌を露出するなんて、凍傷や低体温症まっしぐらの行為。なぜそれでいいと思ってしまったのか…」
そのときは上田さんが持っていたレインウェアと防寒着を着てもらって事なきを得たそうだ。
「別のときには、大きなザックに最低限の水分と行動食しか入れてこなかったお客さまがいました。もし雪山で足を滑らせて動けなくなったり、天候が急変して昼間中に下山できなくなったら、どうやって暖を取るのでしょうか。雪山ならではのリスクを想定しておくことが本当に大切なんです」
これ以外に、雪山におにぎりやハイドレーション(チューブ付きの飲料容器)を持ってきてしまうのも“初心者あるある”だという。おにぎりはガチガチに凍り、ハイドレーションはチューブが凍結して飲めなくなる。水分は保温ボトルに入れて持っていくようにしよう。