嵐のなか不気味な山小屋に避難
2022年8月某日、私たちは長野県のほぼ真ん中を南北に貫く中央アルプスの一座・空木岳を登山していた。一帯の山々を見渡せる眺望やハイマツに覆われた斜面にところどころ白い岩肌が覗く山容が見事で、日本百名山にも選出されている名峰だ。
我々は朝7時に駒ヶ根高原スキー場を出発し、ゆっくりと休み休み登っていた。途中に大地獄、小地獄というスリル満点の崖地もあり登山を楽しんでいたのだが、途中から雲行が怪しくなった。
最初はぽつぽつと表面を濡らす程度の小雨だったのだが、やがてだんだんと雨粒が大きくかつ激しくなっていき、次第に嵐の様相を呈していた。登山用の雨具を着ていてもここまで激しいと身体が濡れて冷えてしまう。山頂までもう少しだったので、寒さに耐えながら登っていたものの、体力の限界も近い。
すると、数メートル先も見通せないほどに雨粒が煙るなか、一軒の建物が浮かびあがってきた。山小屋である。雨宿りができるだろう。だが、真っ白い霧のなかに佇むそのシルエットは、まるで西洋のホラー映画のようで不気味だ。
陰鬱な雰囲気も当然。じつはこの小屋、いわくつきの心霊スポットなのだ。そのことを知っていた私は入るのに尻込みしていたのだが、雨風はどんどん強くなるばかり。仕方なく私たちはこの山小屋で雨宿りすることにした。その夜、恐怖に戦慄することも知りもせずに……。