ライフワークが過激化…大阪〜島根を行脚するまでに

–––そもそも、どうして『リアル遠足』を始めたのですか?

漫画のネタが徐々に尽きてきたころ、ちょうどドキュメンタリー映画が流行っていたんです。じゃあその手法を漫画にも取り入れられないかなかと。ドキュメンタリーって、ネタの宝庫なので。

ただ、やっているうちに少しずつ過激化していって(笑)。最初は目的地が近場の山だったのが、最終的には大阪から島根の出雲大社まで行くとか、四国に行ってお遍路して帰ってくる、とかにまで…。

–––ネタ探しとはいえ、なかなかできることではないですね。もともと歩くのが好きだったんですか?

長距離を歩く原体験は、中学生のときの家出です。当時は大阪に住んでいたのですが、小学生時代に住んでいた奈良まで歩こうとして。結局、途中でギブアップしたんですけどね。歩き疲れてヒッチハイクしたら、乗せてくれたトラックの運転手さんにそのまま警察署まで届けられました(笑)。

–––ギブアップというより、強制リタイアですね(笑)。

そうですね。といっても、かなりの距離を歩いたので、当然苦しかったし、辛かった。でも、どこか楽しかったんですよ。記憶って、辛いことはどんどん消えて楽しかったことだけが残っていくので、その経験が『リアル遠足』を思いつくきっかけになったのかもしれません。

–––今さらなのですが、「アンギャマン」という作家名は、いわゆる「行脚」から?

はい。『リアル遠足』(KADOKAWA)は2010年に単行本として出版したのですが、そのときのタイトルは『アンギャマン リアル遠足伊勢巡礼編』でしたね(当時のペンネームは「左剛蔵」)。

《漫画あり》「野宿しながら、大阪から島根まで徒歩で行ったり…」漫画家・アンギャマンが過激化するライフワーク“行脚”を通して得た等身大の幸福とは?_6
『アンギャマン リアル遠足伊勢巡礼編』(KADOKAWA)

–––そういった活動を経て、2016年ごろから「ジャンプルーキー!」への投稿を開始されます。『河童と仙人と』や『仙錬のヌシビト』、そのほか「ジャンプ+」に掲載された読切など、先生の作品は大自然を舞台にしているものが多いですが、これも長距離歩行や野宿などの経験が影響しているのでしょうか。

そうかもしれません。少し話がずれますが、歩くのって引き返せなくなってからのほうが楽しいんです。だいたい出発して4日目以降とか。疲れて、苦しいからこそ、幸せのハードルが下がるというか。たとえば「晴れてるな」とか、「夕陽が綺麗だな」とか、そんなことがものすごく素敵なことに感じられるようになってきます。

《漫画あり》「野宿しながら、大阪から島根まで徒歩で行ったり…」漫画家・アンギャマンが過激化するライフワーク“行脚”を通して得た等身大の幸福とは?_7
「ジャンプルーキー!」への投稿作『河童と仙人と』。“どこかの山奥”で暮らす河童と仙人のちょっと不思議な交流を描いた作品。小生意気な河童が可愛らしい
《漫画あり》「野宿しながら、大阪から島根まで徒歩で行ったり…」漫画家・アンギャマンが過激化するライフワーク“行脚”を通して得た等身大の幸福とは?_8
第1回ジャンプ縦スクロール漫画賞で佳作を受賞した『仙錬のヌシビト』

–––『ラーメン赤猫』で描かれている“優しさ”も、先生が行脚を通じて得た幸福観によるものなのでしょうか?

その影響はあるかもしれませんね。僕が漫画を作るうえで一番気にしているのは、読後感です。読んだあと、いい気持ちになってほしいなと思っていて。

感動したり、いい気持ちになったりするのって、感情の起伏があるからじゃないですか。そうさせるには一度ストレスを作らなければいけないんですけど……実は、個人的にはそっちを描くほうが得意だと思っています(笑)。