元CAが話す「魔の11分」
事故機以外もこの影響で多くの便が欠航になった。JAL545便・釧路行きの乗客だった会社員男性(35)は、機上から空港に逆戻りを強いられた。
「東京に帰省して、明日から出勤のために北海道に戻るところでした。17時30分発の飛行機に乗り込んで間もなく『ポン』と音がしたと思ったら、外で火花が見えて驚きました。そのまま釧路に到着するはずの19時15分くらいまで機内で待たされましたけど、自分が乗ってた飛行機じゃなくてホッとしました。明日から会社なので帰りたいけど、今日はもう飛行機は出ないとのことなので近くのホテルに泊まるしかない。とりあえずJALの職員にQRコードが印字された紙を渡されたので、その案内に従うしかないですね」
ニュース映像では、あっという間に火だるまになったエアバス機が繰り返し映し出された。あの火勢から、乗客全員を脱出させた乗員たちの奮闘ぶりは、不幸な事故にあっても讃えられるべきだろう。実際、この事故を伝える欧米各紙の記事の見出しには「ミラクル(奇跡)」という言葉が並び、CAたちの臨機応変の素早い対応に賞賛の声が寄せられている。
5年前までJALで客室乗務員を務めていたという女性にも話を聞いた。
「JALでは今でも1年に1回は脱出訓練をしています。煙が出たり炎が見えたら、すぐにパーサー経由で報告して、全ては機長の指示の下になりますが、各CAごとに担当エリアとドアが振り分けられているので、自分の担当する脱出ドアが開閉できるのかどうかを確認して、使えるドアに誘導します。
本日の機体の場合、脱出用の非常ドアは両サイドに4つずつ、計8枚あります。自分担当のドアが使用不能であっても、乗客に勝手に開けられないようにするため、そこからは離れずに大声で使えるドアに誘導します。煙が充満している場合は『腰をかがめて』『口をふさいで』など注意も呼びかけます。今日のケースは着陸後でしたから、ドアを守りながらの声出し誘導となります。事前に緊急着陸がわかっている場合は、救命胴衣を付けたりという行程があります」
このように客室乗務員はあらゆる場面を想定した訓練を行い、なかでも離陸後3分・着陸前8分の「魔の11分」の訓練は特に重視されているという。女性はこう続けた。
「客室乗務員は魔の11分を想定した緊急脱出シミュレーションを行っていますが、今日はそのシミュレーションが本番になりました。全員脱出は、本当にすごいことだと思います。
ただ、旧日本エアシステム(JAS)時代にも、着陸後に炎があがった事故がありました。実は、私の訓練時代の教官はその事故機の乗務員で、『事故後はその恐怖がしばらく拭えず、CAを辞めようと思ったけど、この経験を後輩に伝えていくことが使命だと感じて現場に戻ることを決めた』と聞いたとがあります。
今日の乗務員の中にも、業務に戻れない精神状況になる人もいるかもしれません。しかし、戻ってこられる人たちがいれば、この事故の経験をまた伝承していくことで、新たな教訓が生まれるのではないか、とも思っています」
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班
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