「助産師で二人の子の母親でもある私がやるしかない」
移住した2020年の夏ごろ、役場の保健福祉課から、母子手帳を渡したり新生児訪問の手伝いをして欲しいと声がかかる。
その仕事をする中で、妊娠・出産・育児に直面する新米ママたちから、「産婦人科病院が遠いため、近くに頼れる場所がない」という切実な声を聞くようになる。
地域に産前・産後のママをサポートする助産院が必要だ。起業など考えたこともないし、スキルもないけれど、皆が安心できる場所をつくることなら、私にもできるかもしれない。いや、助産師で二人の子の母親でもある私がやるしかない。
こう決意した雅美さんは早くもその秋、町主催の起業塾に参加。その後、役場から開業支援金の補助を受け、翌21年8月に訪問型助産院を開院、11月には施設「マミー助産院」をオープンさせた。
こうして地域の助産院院長として、上士幌のママと赤ちゃんと伴走する毎日を送るようになった雅美さん。出産以外の産前・産後のママと赤ちゃんのケア、例えば母乳が出にくいときのマッサージ法など、さまざまな相談に対応している。
「自分も同じ地域で子育てをしているからこそ、大変さ、喜びなど、ママたちと分かち合えることが多いと感じています。日々、保育園やスーパーなどでママたちから質問を受けることもあり、近くにいる町の助産師さんとして認識してもらえているようです」
子育てしながら助産師として奔走するのはさぞ大変かと思いきや、意外にも「苦労は実はあまりないです」と笑う。
「開院した当初は『私がここにいないとママが困る』という使命感が強過ぎて、休めないと思い込んでいました。でも、やっていくうちに、私自身がここに暮らしていることでママたちが安心してくれて、助産師でない私も大切にしてくれていることを感じ取り、私もママと赤ちゃんの強さを理解できるようになりました。
今では年末年始とお盆は1か月近く休み、岡山の実家で両親と過ごすようにしていますが、その間はLINEでアドバイスするなど、フレキシブルな対応を心掛けています」