パートタイマーを考慮したモデルが必要
しかし、これだけで日本と韓国のケースが説明できるわけではない。2019年の労働力率を見ると、男性は日本が71.4%で韓国が73.6%と、韓国のほうが高い。男女計では、日本が62.1%で韓国が63.6%と、韓国のほうが高い。また、女性も、日本が53.3%で韓国が53.9%と、韓国がやや高い。
そのため、前項で述べたモデルよりもう少し複雑なモデルが必要だ。それは、日本の場合にパートタイム労働が多いことを考慮したモデルである。
そこで、次のような数値例を考えよう。K国では7人の就業者がすべてフルタイムだが、J国では、5人がフルタイムで、残り5人はパートタイムであるとする。そして、パートはフルタイムの半分の時間しか働かないものとする。J国での1人当たりの年間付加価値生産額は、フルタイムなら20だが、パートは10となる。
賃金支払額は付加価値の半分であるとすれば、フルタイムが10で、パートは5だ。K国での1人当たりの付加価値生産額は20.5で、賃金は10.25であるとする。
以上の仮定に基づいて計算すると、J国のGDPは、フルタイム就業者分が20×5=100、パートによるものが10×5=50で、合計150になる。人口1人当たりでは15だ。
一方、K国のGDPは、20.5×7=143.5で、人口1人当たりでは14.35になる。このように、賃金の安い人が多いにもかかわらず、1人当たりGDPではJ国のほうが数値が高い。
「フルタイム当量」という概念
次に、平均賃金の計算を行ってみよう。パートタイム労働者分を調整するために、OECDの統計では、「フルタイム当量」という概念を使っている。
これは、例えば、フルタイムの就業者の半分しか働かないパートタイマーは、1人ではなく、0.5人とカウントしようというものだ。
右の数値例では、J国でのFTE就業者数は、フルタイムが5人、パートが2.5(=5÷2)人なので、合計で7.5人になる。賃金支払総額はGDPの半分である75なので、FTE就業者1人当たりでは、75÷7.5=10になる。
一方、K国では、賃金支払総額はGDPの半分である71.75であり、FTE就業者数は7人なので、1人当たり賃金は、10.25だ。したがってK国が高賃金国だ。しかし、K国のほうが1人当たりGDPは少ない。
実際のデータを見ると、韓国ではパートタイム労働者の比率が著しく低い。右のモデルが現実の姿をそのとおり示しているというわけではないが、おおよそ妥当なものだと評価することができるだろう。
「フルタイム当量」の考え方は、OECDだけでなく、アメリカなどの、さまざまな統計で用いられている。パートタイム労働者が増えてくると、経済の実態を把握するためにフルタイム当量の概念を用いることが必要になる。日本は世界の中でもパートタイム労働者が多いので、こうした概念の統計を作成する必要性が高い。それにもかかわらず、実際の統計ではこうした概念が用いられていない。