「推しに会えたってだけで何も考えらえないくらい興奮してた」
害虫駆除の会社で働いたのは、そこが寮を完備していたからだという。
千葉県に移り住んでからはハプニングの連続だった。声優の卵のA氏が唐突に動画での活動を停止することになったばかりか、契約社員として入った害虫駆除の会社の社長から激しいセクハラを受けたのだ。
美月は寮を出てしまい、それから2か月近くはネットカフェやラブホを転々としながら売春をしていたが、希死念慮が膨らんでどうしようもなくなった。それでネットで見つけた相談窓口に連絡をし、生活保護を受けて、アパートで暮らすことになった。
アパートの生活は、美月にはとても孤独だった。生活保護でお金は入ってきたが、精神状態が悪く就労支援のための事業所などで働くことができなかった。かといって、心の拠り所だったA氏の消息はわからないままだ。
そんなとき、たまたまSNSで流れて来て知ったのが、歌舞伎町のホストクラブに勤めるイブキ(仮名)だった。イブキはダンスや歌のものまね動画を配信していて、それに心奪われたのだ。早速DMを送ったところ、「直に見せてあげる」と言われ、新宿に呼ばれた。そこからホストクラブに連れて行かれるまでは、たいして時間がかからなかった。
このときの気持ちを美月はこう表現する。
「推しに会えたってだけで何も考えられないくらい興奮してた。ヤバいヤバい、気絶しないようにしなきゃってことばかり考えた。それで薬(精神安定剤)もたくさん飲んだ。いくら払ったかは知らない。たぶん売掛け。でも、ものすごく楽しくて、今思い出しても『キャー』ってなっちゃうくらい」
まるで本物のアイドルと実際に会ったような気持ちだったのだろう。そしてホストクラブの華やかな雰囲気に包まれたことで舞い上がってしまった。
それから美月は毎日のように店に通うようになり、気が付いたら150万円以上の借金を抱えていることを知らされる。それから間もなく、売春をはじめるようになるのである。
大前提として、発達障害があるからといって、ホストクラブにのめり込むわけではない。実際に美月のようになる人はごくわずかだ。だが、そうなった人限定でみると、発達障害のある人の割合がそれなりにあるのはなぜなのか。