神宮外苑再開発で約3000本の樹木が伐採対象に
そのうえ、ビルの用地は神宮球場と秩父宮ラグビー場という歴史ある競技施設を移転したり、神宮第二球場などアマチュア・スポーツのための施設を廃止したりすることで捻出されるという。
そして新たな神宮球場の外壁が、あの美しい銀杏並木のすぐ脇にそびえ立つことになり、地中に深く打たれる壁の杭が木々の根を痛めつける。樹木の専門家たちが銀杏が枯死すると警鐘を鳴らしているのはそのためだ。
神宮外苑の樹木を守る署名運動を立ち上げ、20万人を超える賛同者を集めたロッシェル・カップさんによれば、伐採対象の樹木は3000本にのぼるという。つまり、100年前の先人が未来のために作った美しい森を、私たちが次世代に手渡せるかどうかの分岐点なのだ。
五輪などのビッグイベントを口実にして行われる、このような乱暴な開発を、アメリカの政治学者ジュールズ・ボイコフは「祝賀資本主義」と呼び、批判している。ビッグイベントの陰で、〈コモン〉の解体が静かに進められるというわけだ。
緑の少ない都心部において、神宮外苑の緑は貴重な〈コモン〉である。そしてこのエリアは、市民が手軽にスポーツを楽しめる場でもある。ところが、再開発の計画では、安価に利用できる軟式球場やバッティングセンターなどは廃止され、高級会員制テニスクラブだけが残る。
まさに〈コモン〉だけが狙いうちされている。五輪の前に奪われた菊池さんたちの都営アパートのコミュニティも、やはり〈コモン〉であった。
企業が目先の利益を生むために〈コモン〉を破壊して、金儲けのための道具に変えようとしているこうした事態を前に、これ以上、黙っていていいのか、としばらくひとりで考え込んでいた。
個人的にも、サッカー少年だった小学生の頃から国立競技場には通っていた。いや、そういうノスタルジックな話は脇においたとしても、この神宮外苑の再開発をまず止めることが、全国各地で進む他の乱開発の歯止めにもなるのではないか。資本の論理から〈コモン〉を守るには、市民が反対の声をあげるしかないのだから。