読書好きの親分が獄中で読む本とは
●前出の指定暴力団古参幹部
部屋の中では、古くからいる先輩格から、入ってきたばかりの新入りまでさまざまだ。部屋の中で布団を敷いて寝る際には、一番奥はボス格。奥から順番に先輩から後輩へとなり、入り口に近いところは新入りといった序列になる。
刑務所では基本的に病気治療は無料だ。歯の治療はすべて無料でやってもらった。
だが、病気は禁物だ。刑務所の中で病気になったら危ない。医者は常駐ではなく巡回なので具合が少々悪くても医者が来るのを待たなければならない。同じ部屋で「具合が悪い」と言い出した者がいた。朝、起きると熱があったようだ。その後、運ばれていったが、帰ってこなかった。後に死んだと聞いた。
刑務所の自由時間では読書が最高の娯楽と話す暴力団幹部もいる。
読書を好む幹部の間では歴史もの、特に戦国武将を描いた作品が人気だ。なかでも、戦国時代最強とされた組織を編成した武田信玄の関連作品が好まれる傾向があるという。
●指定暴力団幹部
戦国武将ものが好まれるのは自らの組織をさらに強固にするためだろう。合戦で勝った、負けたという面白さもあるが、組織論という読み方をすれば役に立つ。消灯時間が過ぎても寝床で本を抱えて、常夜灯を頼りに読んでいた。刑務官に見つかれば怒られることになるが……。
●関西地方に拠点がある別の指定暴力団幹部
刑務所の中ではよく読書を楽しんだ。就寝時間となっても隠れて読んでいた。長年の付き合いのある知人たちがいくらでも本を差し入れてくれた。組織としての差し入れも多かった。
自分の場合は『三国志』が好きだ。
蜀の国の劉備、関羽、張飛の三人が、乱れた世の平定を志して義兄弟の契りを交わし、生死をともにすることを誓い合った、「桃園の誓い」の名場面が特に好きだ。ヤクザになって親分と交わす親子盃や、兄弟分となる際の兄弟盃など、組織の中で血縁関係を結ぶ我々のマインドとぴったりとくる。
差し入れは組織の面倒見の良さを知らしめる意味合いもあるようだ。なかには服役中に簿記の勉強に取り組んで、出所後に資格を取得した暴力団幹部もいるという。
文/尾島正洋