ひとはいつか死ぬのだから
――吉本時代は、先のアイドル活動に加え、“名物マネージャー”としてかまいたちさんやとろサーモンさんのYouTubeに出演されていました。ドキュメンタリー番組でもその仕事ぶりが取り上げられましたね。
テレビ番組では演出もあって敏腕マネージャーかのように映っていたかもしれませんが(笑)、そんなことはないんです。担当芸人のダブルブッキング、飛行機のチケットの渡し忘れをはじめ、想定できるすべてのミスはひととおりやりましたし。
――苦労された分、担当芸人さんたちの活躍はマネージャー冥利に尽きるのではないでしょうか。
特に印象深いのが、かまいたちの武道館単独ライブ(2023年2月)です。私が担当した2019年当時、彼らは東京に来て2年目。レギュラー番組も1個か2個のときから一緒にお仕事をしているので、一気に駆け上がるさまを間近で見ることができました。すごい人たちに、ぜいたくな経験をさせてもらえたなと。
――かまいたちさんも、関西で絶大な人気を誇りつつも上京された直後は苦労が多かったと聞きます。樺澤さんの「恵まれた環境を捨てて次のステージへ移る決断力」は、芸人さんの間近にいることで培われたものなのでしょうか?
「決断力」というと、現状の何かを捨てたりやめたりしてほかのものを選び取ること、と思われがちですが、そればかりではないと思います。今あるものを捨てない、やめない、というのも立派な決断。吉本の上司を見ていても、ひとつのことを続けることの尊さを感じます。同じ仕事をしていても、年月の積み重ねがある人とない人では見える景色が全然違いますよね。
そもそも私の今回の海外移住にしたって、決断って言葉から感じられるようなポジティブなものではないんです。コロナになって、死を身近に感じた。どうせ死ぬなら、英語がしゃべれるようになりたい。いつか無になるんだから、アイドルをやってみたいし、海外にも住みたいし、外国人と友達になりたい。思い返せば、いつもそうやって決断してきた結果が今なのかもしれません。
――一見型破りに見える樺澤さんの決断の裏には、意外な死生観があるんですね。
何かを決めるときには、常に死を意識して(笑)。それでも迷ったら面白いと思うほうを選べばいいんじゃないでしょうか?
――オーストラリアに行って最初にやりたいことはありますか?
何はさておき、マンリービーチでワインを開けたいですね。オーストラリア人はみんな海辺でお酒を飲むらしいんです。その後は何も決まってないんですが、ひとまず仕事を見つけないといけませんね。シドニーに移住した日本人の中には、農業をされる方もいるとか。
――チャラい(笑)。お仕事はご実家の経験(*樺澤さんの実家はホウレン草などを扱う農家)が生きるかもしれませんね。かまいたちさんも、樺澤さんに「移住YouTuber」として、現地からの情報発信を期待されていました。
YouTube、やってみようかな。嫌なことがあってもそれがネタになって笑ってもらえたら前向きになれる気がします。それがきっかけで叩かれたって別にいいんですよ、私たちは皆、いずれ無になるんですから。
取材・文/結城紫雄
撮影/松木宏祐
ヘア&メイク/鷲見星奈
スタイリング/石塚愛理
衣装協力/Katrin TOKYO Dorry Doll moi tytto Pani pani LUNACHIC HIMIKO CHARLES & KEITH