ご飯出してあげればよかったな

そして、弟の死を伝えられた。緊迫した現場の雰囲気から「ウソではない」とわかっても、3歳年長の長姉にはにわかに受け入れ難いことだった。

「弟は末っ子なので、神経質で小心者な私とは性格が真逆で、ハチャメチャというか度胸があって。ある意味、羨ましいというか眩しいというか。問題児でもあるんだけど、人情があってすごい頼りになるというか。3人きょうだいで、真ん中の妹は私とも弟とも気が合ったんだけど、私と弟は性格は真逆なので、ぶつかることも多くて。

ただ、小さいころにそうやってよくけんかとかしても、成長してお互い家庭を持って、私にも弟にも子どもが生まれたので、これからはお互い協力しながら、いろいろあっておもしろいだろうなって思ってたんですよ。そんな矢先に、いなくなっちゃった」

安田種雄さん(遺族提供)
安田種雄さん(遺族提供)

最後に会ったのは亡くなる1週間ほど前のことだった。種雄さんは今まで見たこともないほど、疲労困憊した様子だったという。

「最後に会ったときは、もうあんまりご飯も食べてなくて、なんかボロボロになってて。私が実家にいたときに帰ってきて、玄関になだれ込むように倒れ込んで。『何か食べる?』『出前でも取ろうか?』って聞いたら『いや、いいよ』って。弟はそのままちょっと休んで、出ていったと思います。それが最後なので、すごい悔やまれるっていうか。ご飯出してあげればよかったなって」

当時X子さんは子どもを連れて種雄さんの元を離れ、違う男性と暮らしていたらしい。種雄さんが倒れ込むほど疲れ切っていたのは、そのトラブルに起因していた。

「弟はとにかく『お金がない』と言っていて、X子に対してお金を工面するのが大変そうでした。自分の身の回りのものを売ったりして、お金を作ってましたね。当時は私も出産して半年ほどで、自分の生活でめいっぱいで、ちゃんと聞けていなかったところはありましたけど、弟が大変な状況にはあるんだろうなとは感じていました」

それからほどなく、種雄さんは帰らぬ人となった。X子さんは葬儀にも顔を見せず、遺骨の引き取りも拒否したという。

(後編に続く)

取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班