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「阿部さんはコロナとかインフルの合併症で入院してる」
社会部デスクが事件の経緯を解説する。
「阿部さんの姿は9月末に姉が現認したのを最後に誰も見ていませんでしたが、その後も阿部さんのLINEのアカウントを使って親族にメッセージが発信されており、不審に思った姉の機転で11月20日に行方不明届が出され、翌日に阿部さんの自宅マンションで変死体が見つかりました。司法解剖の結果、死後2ヵ月近くが経過しているとみられています。
内田容疑者は2014年ごろから同店で働くようになりましたが、2000万円もの横領が発覚して経営者の阿部さんに毎月少額を返済していたことなどがわかっています。二人が愛人関係にあったかどうかはさておき、内田容疑者が合鍵を持って自由に阿部さんのマンションを出入りしていたことが捜査でも裏付けられており、捜査1課は自信を持って同24日に死体遺棄容疑で逮捕しました」
実際に阿部さんが姿を消した9月末から、内田容疑者は「知人」として店主の代行をしていたようだ。阿部さんの長年の友人で常連客でもあるA氏が絶対匿名を条件に取材に応じた。A氏は阿部さんの生前、「おたからや」に1500万円分のインゴット(金塊)や貴金属を持ち込み、代金は後日支払われる予定だった。だが取引の最中、阿部さんと連絡がとれなくなったという。
「店に電話をしたところ、内田容疑者の携帯電話に転送されて『阿部さんはコロナとかインフルの合併症で入院してる』と言われたんです。私はあの店に他に従業員がいたのも知らなかったので『そもそも電話に出てるあなたは誰ですか』という流れで彼女と連絡を取ったり、、結果的には逮捕される2日前まで連絡を取り合っていたことになりますね」
A氏が阿部さんと最後に連絡を取り合ったのは「行方不明」になる直前のことだったという。
「最後に話したのは9月29日のお昼ごろ、阿部さんから電話で『今日の夜に(インゴットの)代金を持っていきます』と連絡がありました。約束を破るような人ではないのですが、その日の夕方に携帯に電話しても繋がらず、次の日も同様で、店にかけても出ない。携帯からは機内モードの『ただいま電話をお繋ぎできません』という音声が流れました。
その状態が10月4日ぐらいまで続き、その数日後に店の固定電話にかけてみたら転送になり、内田容疑者が電話に出たんです。彼女は『実は阿部さんはコロナとインフルエンザの合併症で国立病院に入院しています。私は知り合いで電話だけ対応させてもらっています』と説明しました。
実をいうと9月29日の少し前に連絡を取ったとき、阿部さん本人が『ちょっと風邪っぽいわ』って言ってたんですよ。彼は真面目でこれまで不義理をしたことは一度もなかったので、このときは阿部さんの体調を心配していまして」