「大山のぶ代、心筋梗塞」デマの真相

翌朝、病室を訪れると、彼女の身体にはたくさんの管が繋がれていた。しかも意識は朦朧としていて、話しかけてもほとんど返事はない。時折、うっすら目を閉じて僕を見るのだが、痛いのか、苦しいのかさえ、僕には判断できなかった。

カミさんは、手術せず投薬を続けていたが、医師が予測していたように、その日の夜、僕が帰宅している間に、やはり再び血栓は飛んでしまったそうだ。

入院3日目の早朝、看護師さんから電話が入り、「すぐに来てください」と言う。何事かと思って飛んで行ったら、病室には大パニックを起こしているカミさんの姿が!

カミさんは「なぜ自分が、ここにいるのか?」も判断できず、分かるのは夫である僕がそばにいないということだけ。僕がいないことが、パニックのすべての原因だったようだ。

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医師の説明によれば、血栓が詰まったのは前頭葉とのこと。脳梗塞の中では比較的、軽度で済んだようで、身体での麻痺は残らないという。ただ、前頭葉がダメージを受けたことで、しばらく記憶がハッキリしないだろうとのことだった。

また、彼女が「脳梗塞になった原因として、糖尿病が考えられる」と医師は言っていた。なんでも、糖尿病患者は、そうではない人に比べて脳梗塞になりやすいのだという。

「趣味は食べること」というぐらい、食べることに関しては一切我慢をしなかったカミさん。まるでドラえもんのように丸々と肥えていたが、それでも節制する気にはならなかったようだ。

糖尿病、そして脳梗塞は、そんな生活のしっぺ返しなのだろうか……。

病院から帰宅すると、通信社の記者が我が家に待ち構えていた。親しい友人にさえ明かしていなかったのに、いったい、どこからペコの病気のことを入手したというのか、かなりの早耳だ。

「大山さんが脳梗塞で入院したと聞いたんですが?」

「いえ、いえ、違います。大山は心筋梗塞の検査で入院しているだけです」

僕は、とっさに記者に嘘をついてしまった。心筋梗塞も場合によっては命に関わる重篤な病気だろう。それでも、この段階で「脳梗塞」だと本当のことを明かすことは憚られる気がしたのだ。

ただ、そのせいで、「大山のぶ代、心筋梗塞で緊急入院」という誤った情報が、一部マスコミで報じられてしまった。報道を知り、心配して連絡をくれた人もたくさんいたのだが、なんと言えばよいのか……。返答に困り、ここでも僕は適当にやり過ごすしかなかった。

加えて、正直なところ、僕はそれどころではなかったのだ。