きれい好きのカミさんが風呂ギライに
「大山さんは、いつから認知症になったんですか?」
取材で記者にそう聞かれることがあるのだが、正確に答えるのは難しい。カミさんの場合、脳梗塞のリハビリをしている最中に認知症になったわけなので、どこまでが脳梗塞の後遺症で、どこからが認知症なのか、はっきりしないからだ。
「後遺症とアルツハイマー型認知症は別物です」
医師は、そう語っていた。確かに医学的には、そうなのだろう。でも、脳梗塞から認知症へと徐々にスライドしていったのではないか……というのが、日々、カミさんを見てきた僕の実感でもある。だが、認知症と診断された頃から、明らかに「これまでとは違う」と思うことが頻繁に起こるようになっていった。
その一つが、「衛生面への無頓着さ」だ。これは、認知症の典型的な症状の一つなのだという。
カミさんの場合はまず、極端に風呂を嫌うようなった。あんなにきれい好きだったのに、入浴を面倒くさがるようになったのだ。僕は何度か、彼女を執拗に風呂に入れようとしたことがある。介護をしているご家族の方ならお分かりだろうが、病気の患者をお風呂に入れることほど大変なことはない。
「ペコ、お風呂入りなさいよ」
僕がそう諭すと、彼女はしぶしぶ浴室に行くありさまだった。だが、入ったふりをして実際には入浴していないこともある。浴室に足は運ぶものの、ものの1分ほどで出て来てしまうのだ。
「ペコ、お風呂入ってないでしょ? ちゃんと入らないと」
「入ったわ」
浴室を見に行くと、案の定、床も壁も乾いている。
「ほら、全然濡れていないよ。やっぱりペコ、入ってないでしょ?」
「あたし、入ったってば!」
こういった声を荒げての激しいやり取りが続くと、僕はただただ深い溜め息をつくしかない。
僕がいくら言ってもカミさんは風呂に入りたがらないので、その後は週2回、マネージャーの小林が一緒に入浴してくれることになり、それは現在に至るまで続いている。