いずれ軍の輸送網はAI操縦に?
前出の嶋田氏が続ける。
「ただ、大型のものは『完成したらいいな』くらいの認識でしょう。旧ソ連でも1980年代にターボジェットエンジンを搭載した全長約100m、積載量約100トンの『エクラノプラン』という大型揚陸用航空機が開発され、西側から『カスピ海の怪物』と恐れられたことがあります。
しかし、地面効果艇は波が高いと運行できないため台風等の荒天が少ないカスピ海専用装備となり、製造された4機も85年に開発の後ろ盾となった将軍が亡くなり、計画ストップで退役。90年代後半までに全機、軍より除籍されました。実戦配備として活躍する前に航空機の歴史の中から消え去ったのです。米海兵隊としてはリージェント・クラフト社のこの小型機体こそ、当面の大本命なのでしょう」
とはいえ、「シーグライダー」がこのまま順調に開発・配備される保証はない。
「電動なので手っ取り早く航続距離と速度を稼げるというメリットがある一方で、向かい風等の悪条件があると途端に数字がガクンと落ちてしまう、バッテリー原料であるリチウムの産出量が希少なこと、取り出しエネルギーが気温など左右されやすいなどのデメリットもあります。価格面、素材供給面などのデメリットを考えると、海兵隊が求めるほど大量の『シーグライダー』を製造、配備できるのかが懸念されます」
その他にも、将来、「シーグライダー」のような軍事用輸送機にドローンのようにAI操縦が導入された場合、最前線の戦場で対空兵器の回避などの突発事象を自動操縦でクリアできるのかという懸念もある。無人機・ドローンの航法の前提となるGPSが絶たれた時のルート精度の確保も心もとない。その輸送が兵士の命に関わるような任務であればなおさらだ。
決まったルートを高速で物資輸送するだけの業務なら、ドローンのように操縦による支線/幹線輸送の実現性は高いだろう。いずれ軍の輸送網は「シーグライダー」のような中小の支線輸送機(12人乗り版)、さらには「リバティリフター」のような大型の幹線輸送機(100トン版)もAI操縦に置き換わる可能性は否定できない。
だからこそ、小型、大型にかかわらず、世界の民間航空や輸送関連の企業が特異性を持つこのような機体の開発に興味津々なのだ。インターネットやGPSなど、米国では軍事技術が民生技術にスピンオフされるケースが多い。今回の海上スレスレを高速移動する異形の次世代モビリティ、「シーグライダー」がどのような姿形で登場するのか、注目したい。
取材・文/世良光弘