一杯のラーメンに隠された可視化できないコスト
近所の関東学院大学は休校になり、学生客がまったくいなくなった。近くにある日産自動車の追浜工場も、車の生産台数を減らしたことにより出勤する従業員も減った。それは、当然ながら「神豚」の客足にもダイレクトに影響した。
一方で近隣住民がリモート勤務になったことで来店することもあったが、全体的な売上の激減は避けられなかった。
「コロナ禍では助成金で何とか生き延びた感じでした。しかし、助成金が終わった今年の春からまたさらに運営が厳しくなってしまったんです」(小寺店長)
その大きな理由は原材料費、水道光熱費の絶え間ない高騰だ。
小麦、豚、背脂、乾物などほぼすべての原材料費が上がった。特に二郎系のお店では豚骨スープを寸胴で炊き続けるため、ガス代の高騰がダイレクトに原価に響いてしまう。「神豚」では以前より製法を工夫し、強火で炊くことに依存しないスープ作りで課題はクリアしていたが、さすがに今年のガス代の高騰は避けられなかった。
「ラーメンは丼からは見えないコストが本当に高いんです。スープを作り置きするのは難しく、ずっと炊き続けていることによるコストがあります。作り方を変えたり、材料を変えたりするわけにもいかず、原材料費、水道光熱費の高騰によるダメージが直撃している状態です」(小寺店長)
さらには人材不足が重なった。「神豚」に限らず、ここ近年ラーメン店は従業員の募集をかけてもなかなか応募が集まらない傾向にある。各社、労働環境や働き方の改善を図っているが、根強く残るハードワークのイメージが強いようだ。
「募集しても人が来ないんですよね。そこには『ラーメン屋の仕事はキツい』というイメージの問題が大きいです。今の時代、体育会系のスタイルではやっていけないので、どこも働き方は改善しているはずなんですけどね。うちは高校生のときにアルバイトから入ってくれた従業員が、大学に進学してもそのまま続けてくれる子も多いです」(小寺店長)