ノイズだらけの画面と物語にかかわらず取り込まれる!

ガンダムの放送終了から約半年後、1980年5月から新作アニメ——『伝説巨神イデオン』(1980~)が始まりました。これがまあ予想を上回るソリッドな内容だったのです。

キャラクターデザインは、『ガンダム』の柔らかい描線の安彦良和さんにかわって、湖川友謙さん。『宇宙戦艦ヤマト』で作画監督、『無敵鋼人ダイターン3』(1978~)のゲストキャラクターデザインをやってた人だけど、そのオリジナリティあふれるデザインはそれまでのどのアニメよりも立体的な骨格を正確に捉え、漫画の延長ではなくクロッキーのような描線で、アニメとしてのかわいらしさを意図的に排除しているのではないかとさえ思えました。

『ガンダム』の続きを期待するファンの希望を叩きのめす『イデオン』は、「俺たちへの挑戦状だ!」と燃えたった樋口真嗣。またしてもぶった切られるが擁護する!【『伝説巨神イデオン』】_2
主人公のコスモ。湖川氏の圧倒的なデッサン力が感じられるキャラデザイン

キャラクターの髪型も主人公のアフロヘアをはじめとして、切り詰めすぎた前髪パッツンとか、有機的で不連続なカーブで構成された敵のロボット…とは呼ばない…重機動メカたちと同じく、キャラクターとしての感情移入を拒むようなフォルム。そして何よりも不安定な電波で画面はほとんど白黒番組、おまけに不安定なのは受信状態だけでなく、登場人物の精神状態や人間関係も回を追うごとに不調和さがエスカレートしていきます。

ざらざらとしたノイズだらけの画面に負けないぐらいのササクレ立った展開に、幾度となく脱落しそうになりますが、その物語にちりばめられる聞いたことのない単語の連発や、謎が謎を呼ぶ展開に振り回されつつ取り込まれていきます。

ロゴ・ダウの異星人、ギル・バウの戦法、デス・ドライブ、ゲル結界、オーメ財団、ルネタの貴人上がり…何の説明もなくやり取りの中に出てくるその単語、今であればググって解決だけど、当時は調べるすべもなく。と思えば、サムライとか特攻とか耳なじみのいいものもあったり、その言葉の響きいずれもが、のちの富野タームとして結実するのですが——高校生の好奇心探究心をくすぐるのです。

そもそもタイトルのイデオンってなんだ? イデがオンするってどういうこと? しかも異星人どうしの姦通、受胎、母性を裏切った女への執拗な報復を逃れ繰り返す逃亡劇というそれを、どう楽しめばいいのかわからないほど過酷でアダルトな展開。一方、それとは乖離して暴走する天才的アニメーター板野一郎によるメカ同士の高速バトルが繰り広げられるけど、残念な受信状態なのでその凄さは半減。

それでも一癖も二癖もある登場人物の葛藤衝突相剋は、プロレスの場外乱闘のような予想不可能な面白さとして突き刺さりまくります。受信状態の悪さを補って余りあるほど、登場人物たちの感情、表情、言葉で織りなすドラマに釘付けです。これはアニメの表現を超え、人間よりも人間ではないか!

ガンダムの続きを期待するファンの希望を叩きのめすかのような、おそらく富野監督の独断で進められた挑発的モノづくりは、俺たちに対する挑戦状だ!と、頼まれてもいないのに勝手に受けて立つバカな田舎の高校生は、毎週木曜を楽しみにしていたのです(途中で毎週金曜に放送時間が変更になりましたが)。
しかし、その熱狂もまた理不尽な外圧により分断されます。