前理事長が残した負の遺産を完全清算しようとする日本大学
日本大学の教員が、学生の成績を改ざんしていたらしいという事案が報じられた。
今年9月におこなわれた学内会議で教員が、「数年前、当時の理事長に呼び出され、相撲部の学生に赤点をつけたことを叱責され、成績を書き換えて単位を出した」と証言。
大学側は特別調査委員会を立ち上げ、不正事案について検証中なのだとか。
このニュースに対し、「なんて不公平な。ひどい話だ……」と思った人は多いだろうが、逆に「こんなことが問題になるの?」と思ってしまった人もいるはず。
特に私立大学ではかつて、学校のPRにつながるような活躍を期待できる運動部学生に対し、学校側が成績評定を甘くすることなど、なかば公然とおこなわれていたからだ。
大昔の話だが、のちに“ミスタープロ野球”と呼ばれたスター選手が大学に在学していたころ、学内の試験は名前を書くだけですべてパスできたというエピソードがまことしやかに語られた。
嘘かまことかはわからないが、少なくとも多くの人々はこれを単なる笑い話として受け止め、目くじらを立てるような空気はなかった。
高校時代から頭角を表してスポーツ推薦で入学してくる体育会系学生などは、多かれ少なかれそういうもんだと思われていたのだ。
実際には現在の大学では、そうした不公平はほとんどないのかもしれないが、日本人の心にいまだ根づいている「まあまあ、そんな厳密にしなくてもいいんじゃない」といった“なあなあ意識”は、これから先、本格的に通用しなくなるのかもしれない。
日大の件は、「当時の理事長」および「相撲部学生」というパワーワードによってニュースバリューが増し、報道に至った。
まだ記憶に新しいところだが、“当時の理事長”こと日大の田中英壽前理事長の行状がメディアで盛んに報じられたのは一昨年のことだった。
学生・生徒数9万5000人を超える国内最大規模の学校法人・日本大学のトップに13年間君臨した田中前理事長は、強豪・日大相撲部の監督を長らく務め、OBから大相撲力士を数多く輩出したことによって、角界にまで隠然たる影響力を持つ実力者だった。
だが、多額の不透明な金銭の流出や反社会的勢力との交際が報じられると風向きが変わり、学内で彼に意見した人が左遷やパワハラによる退職を余儀なくされてきたことなど、多岐にわたる問題が次々と暴露された。
そして2021年11月、約5200万円を脱税した容疑で逮捕、起訴され、その後、有罪判決が確定した。
この一連の件により、絶対的な権力を振りかざす人物による専制という実態が白日のもとに晒された日大は、その後、作家の林真理子氏を新理事長に迎え、抜本的な組織改革に取り組んできた。
それから2年弱の月日が流れ、今回の成績改ざんの件が公表されたのは、過去の膿は徹底的に出しきって完全にクリーンになろうという意思によるものだろう。
スター的な扱いを受ける学生が、一般学生とは違う厚遇を受けることが、果たして許されるのか否かは、まだ議論が深まっていない。
だが長年の間、“まあ、そういうこともあるんだろうね”と多くの人が認知しつつウヤムヤにされてきたことも、今後の日本の社会では白黒つけなければならなくなるのではないかと指摘されている。
日本の社会では長い間、伝統的な組織文化や業界特有の慣習が大きな力として働いてきた。
しかし近年、めざましい勢いで情報化やグローバル化が進んだ結果、そうした伝統のもとで長い間ウヤムヤあるいはタブー視されてきた事案や問題に、少しずつメスが入れられているのだ。