総理大臣会見の指名格差の実態
ジャニーズ事務所会見における指名NGリスト発覚をきっかけに、記者会見のあり方にかつてないほど注目が集まっている。これに関連して10月5日に松野博一官房長官は「(首相会見では同様のリストは)存在しない」とコメントしたが、同会見にフリー記者の立場で継続的に参加する筆者はこの発言に強い違和感を抱いた。
確かに同会見に指名NGリストは存在しないのかもしれないが、だからといって質問者が公平に指名されているわけでは決してない。正確に言えば、「不都合な質問をする記者を指名回避する仕組みをすでに確立させているため、NGリストを作成する必要はない」のだ。
大前提として、首相会見の指名には大きな偏りがある。現に筆者が約2年間(2020年9月16日~2022年10月28日の36回)の同会見の指名状況(回数、順序)を多角的に調査した際、指名が極めて恣意的に行われている事実が定量的に明らかになった。
一例として内閣記者会 常勤幹事社19社の会社別指名回数では、指名が多い社(NHK21回、日経新聞19回、読売新聞17回、産経新聞17回)と少ない社(北海道新聞 7回、東京新聞 4回)の二極化が鮮明になった。
*内閣記者会常勤幹事社は19社(朝日新聞、NHK、共同通信、京都新聞、産経新聞、時事通信、Japan Times、中国新聞、TBS、テレビ朝日、テレビ東京、東京新聞、西日本新聞、日経新聞、日本テレビ、フジテレビ、北海道新聞、毎日新聞、読売新聞)で構成され、首相会見に抽選を経ずに毎回必ず参加できる、自らが幹事社(2ヶ月毎に2~3社が持ち回りで担当)の回は会見冒頭に「代表質問」として必ず質問できる等の恩恵を受けている
*同調査の概要は筆者が集英社オンラインに寄稿した記事「【総理大臣会見】なぜNHKの記者ばかりが指名されるのか? 指名回数のデータ化で見えた「不公平」と「メディア間格差」」(2023年1月31日)参照
これは「常勤幹事社19社の中」の格差だが、「この19社とそれ以外」の格差も凄まじい。例えば同調査では僅か19社の常勤幹事社が、首相会見の全指名の実に66%を独占していることも明らかになっている。
*残りの指名の内訳:フリーランス・ネットメディア15%、常勤幹事社以外の内閣記者会(ラジオ、地方メディア等)10%、外国プレス10%。合計は100%にならない理由は四捨五入のため