実際のビジネスケアラーたちが求めているものとは?
そもそも、ビジネスケアラーとして上手に両立していくということは、職場への適応性を多かれ少なかれ少し下げるということでもあります。程度の差はあれ、出張や残業がしにくくなるのが現実だからです。
介護休業は、かなり長期の休みが認められる制度です。その取得は、介護のめどをつけるためには、たしかに必要なものかもしれません。それでも、そこには引きこもりが生まれてしまう心理的なプロセスが、リスクとして大きな口を開けていることは覚えておいてください。
ただ、「介護休業を長期でとってはいけない」と言いましたが、実はそう言うまでもなく、そもそも「介護休業制度をとりづらい」と感じているビジネスケアラーも多いかもしれません。
介護休業制度、介護休暇制度、介護時短制度が、実際にどれくらい利用されているのかに関する、弊社の独自データを示します(サンプルサイズ2555人)。
この分析から明らかなのは、大多数のビジネスケアラーは、介護休業制度などの存在は正しく認識してはいるものの、それを利用していないという事実です。
その理由は、介護のためのお金が稼げなくなることだけでなく、職場の理解が得られないことや、評価が下げられてしまう恐怖など、様々です。
いざというときには休みやすい職場である必要はあるでしょう。ただし、実際のビジネスケアラーたちが求めているのは、休みやすさではなく、とにかく仕事に穴を開けないで介護も成功させることなのです。
この点についての理解は、まだ日本の企業には広がっていないというのが現実です。
介護離職のボーダーラインは、平日平均2時間、休日平均5時間
さらに決定的なデータがあります。平日平均2時間以上、休日平均5時間以上を介護のために使ってしまう人は、介護離職をするというものです。
これは介護離職のボーダーラインであり、本人はもちろん、企業もまたしっかりと認識する必要があります。
「休みやすい職場」もたしかに大切なことですが、「仕事を休まずに、介護を行っていける具体的な方法」を情報として得られる環境が、ビジネスケアラーにとって重要なのです。
いかにそれが当然の権利であったとしても、介護のための長期の休みは可能なかぎり避けたいところです。
午前休や定時退社などを組み合わせつつ、どうしても休む必要があるときは、長期の介護休業ではなく、できるだけ短期に、介護休暇や有給休暇などで対応していくことを考えてください。介護休暇は、21年の法改正で時間単位での取得も可能になりました。
そして有給休暇のうちの何日かは、できるだけ、家族との旅行のためなどに残しておくことも忘れないようにしましょう。
文/酒井穣 写真/shutterstock
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